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「ニ楽亭へようこそ」その2 [小説]

鎌倉の海沿いは、
東西に湘南海岸道路が走っている。
その道を西の稲村ヶ崎から東の由比ヶ浜に向かって、
金髪碧眼の大男が悠然と歩いている。
その前に立ちはだかったのは、
どう見ても女子高生と巫女という風情の、
ふたりの女性だった。
「これはこれは、
西御門(にしみかど)弾正府を統べる
弾正尹(たんじょうのかみ)
化野(あだしの)美沙どの。
ご機嫌よろしゅう。
葛葉どのも、いい加減良いお歳でしょうが、
相変わらず見目麗しい。
このアレクサンダー・フォン・シーボルトの血も騒ぎますぞ」
「淑女に年齢の話をなさるとは、
とても紳士の所業とは思えないのです!」
葛葉と呼ばれた女性が憤慨した様子でいなす。
巫女服に身を包んだ彼女の頭部には、
まるで狐のような、
先端が白く、
その他の部分が茶色地の、
けものの耳が生えている。
そして、耳と同じような色合いで、
五つに分かれている、
こちらもまるで狐の尾のような、
りっぱなしっぽも生えていて、
左右にゆっくりと揺れている。
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『良い歳』と言われていた彼女だが、
せいぜい20歳ぐらいにしかみえない。
その隣にいるさらに歳若な、美沙と呼ばれた、
ショートカットにセーラー服の少女が、
ため息混じりにつぶやく。
「まったく、懲りない連中だね。
この前この国に、
おまえの父親がちょっかいけかてから何年たつんだ?
もう120年か…。
あんときゃ、将軍(だんな)が上手いことあしらって、
なにもかも不問にしてやったっていうのにさ。
いい加減、あきらめてもよさそうなものを…」
「ご冗談を。我ら貴族信徒は、
主の為であれば、
喜んで命を投げ出しますぞ。
もちろん平民とて同様」
シーボルトが、パチッと指を鳴らすと、
彼の影の中から、
無数の影がわき出してくる。
「外務卿・井上 馨(かおる)殿の特別秘書を足がかりに、
この極東の地にて、
我が教団の礎にならんと志して、百数十年。
そろそろ我が肉体にも限界を感じましてな。
一族を引き連れて、
弾正尹どのに挨拶にまかりこしましたしだいです」
「第3契約者との折り合いが悪いからって、
この日ノ本を世界制覇の足がかりにしようったって
そうはいかないんだよっ!!!」
美しい少女の面影からは
想像もつかない荒々しい言葉が、
美沙の口をついて出る。
それを聞いたシーボルトがニヤリとしながら話し始める。
「あなたを守護する金狐・葛葉殿とて、
いにしえの<傾国>の末裔(まつえい)。
人の味を一度覚えたら最後、
我らに同心してくださるのは…」
そこへ、すさまじいスピードで黒い影が飛来したかと思うと、
シーボルトの配下を打ち倒していく。
「美沙様、葛葉様! 遅参いたしました! 
三峯弦一狼、ただ今推参!!」
そう叫んだのは学生服を着た小柄な青年。
彼は自分の背丈よりも長い日本刀
=六尺斬馬刀を軽々と振り回しながら、
敵を切り刻んでいく。
「お、おのれっ!! 狼風情が邪魔だてするかっ!!!」
部下を打ち倒され、シーボルトがうめく。
「ご苦労さまです~」
「弦一狼、ぬかるんじゃないよ!」
「承知!」
三人は声を掛け合うと、
シーボルトを目指して突進し、そして辺りは光に包まれ――。

第1章終わり
その3(第2章 その1)につづきます♪
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