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「二楽亭へようこそ!」 ハワイ細腕繫盛記 その12 [小説]

「ぎゃー、折れるっ折れるぅーっ!」
「この声…まさか雪ンバ…、
ははは、なんと本命が釣れるとはね…」
そう呟いてアメリカ兵士に変装していたキザクラが正体を現した。
「やかましいっ! どっちにしろ音音はもう死んだんだよっ!
早く放せって言ってるんだよっ!」
暴れる雪ンバの前に立って、
「見苦しいですわね…」
と吐き捨てたのは先ほど凶刃に倒れたはずの音音だった。
「化野…音々…どうしておまえ…生きて…る…」
血のシミが広がる胸にナイフをさしたまま
仁王立ちをしている音音を見て言葉を失っている女。
その肌から生気が失われ、
化けていた雪ンバが正体を現した。
「お久しぶりですわね…日本で見かけないと思ったら、
雪女のくせにハワイに潜伏してるなんて、
想像もしてませんでしたわ」
ほーっほっほっ! と高笑いしながら、
ナイフをはずしてみせる。
「マジック用の小道具ですわ。
あの氷にあなたが何か仕掛けたのは
同じ雪使いのリノが見抜いて処理しましたのよ。
ですから、
ボスネセンスキーの方たちには凍り付いた真似を
していただいたわけですわ!」
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それを受けてタチアナも、
「もともと難癖付けて
音音が殺されたふりして隠れる計画だったので
丁度よかったんだけど、
ご当人がお出ましなんて運がいいね!
あははは」
と言うと高飛車に笑いとばした。
ふたりの小娘にバカにされて雪ンバは、
怒りで真っ赤を通り越して
真っ青になっている。
「ぐうぅ…こうなったらみんな道連れにしてやるっ!
永久凍土に封じ込めてやるわっ!」
雪ンバが叫ぶと、
周囲の温度が急速冷えていき雪ンバを中心にして
見る間に氷塊が形成されていく。
「これは…総員退避!
事態は急を要しますわっ!!」
音音が指示すると同時に河童ガードが出口に向かって動いたが、
ドアがすでに凍結して、
河童の怪力でもビクとも動かない。
「みんな氷ついて死ぬんだよっ!」
「くそっ!」
ホルスターから素早くイジェメック MP-443を抜いて連射したタチアナだったが、
弾丸は途中で凍り付いて霜が付き、むなしく床に散らばっていく。
兵員も各々撃ちまくるが
妖(あやかし)には絶対の威力を発揮するヒヒイロカネの弾丸も、
届かないのでは話にならない。
氷がさらに厚さを増し、
満員電車さながらに身を寄せあう中で、
タチアナが音音に、
「まさかあんたと心中することになるとはね…」
と呟くと、音音は、
「最後まであきらめてはいけませんわ!
出来ることはすべてします!」
と、まっすぐにタチアナの目を見て答えた。

第12話おしまい
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