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「二楽亭へようこそ!」 ハワイ細腕繫盛記 その14 [小説]

――半月後、
特訓の末、バイトでも上手に焼けるようになった
カラマリボールを引っ下げ、
リノたちの店は<カラマリボールマニア>としてリニューアルオープンした。
タコヤキのタコの代わりにイカを入れたカラマリボールは、
思った通りハワイアンや、
アメリカ本土からの観光客にも好評で、
口コミで広がるとマスコミもこぞって飛びつき、
当然人気は日本人観光客にも飛び火した。
新店舗を出店するにあたり、
焼き手の社員やバイトの養成にも力を入れ、
キチンと人員が確保出来てから出店をしたため、
しばらく品薄状態だったことも
結果、人気に拍車をかけることになった。
文字通りの業績のV字回復に
とんでもなく忙しくなったリノたちは嬉しい悲鳴を上げた。
「さんくす音音!
コレデ私タチ一族、生活シテイケル!」

一方、今回敵対した火の一族についても、
ナドワの属するアメリカンネイティブ協会の周旋で、
音音率いる道楽チェーンが助力することになり、
広島風お好み焼きをアレンジしたカラマリヌードルサンドを
メインメニューにした、
<OKONOMIマニア>という店で再起を図る事になった。
小さなカラマリフライを食感のアクセントに入れて、
片手でも食べられるようにスティック状にしたお好み焼きは、
安くて美味しいと評判になり、
やはり行列のできる店になりつつある。
「これで一件落着ですわね」
格安のコンサルタント料とシェイブアイスマニアの薄利では
リベラルアメリカ軍への弁償など
ちょっと時間がかかりそうだけど、
長い目で見れば新たな成長店舗を
手に入れたことになるだろうとニヤニヤする音音に、
「もう早く帰りましょうよ…」
と暗い顔で言ったのはクボタだった。
あの一件以来リノに気に入られ、
婿養子にならないかと執拗に迫られている。
「クボタとリノが結ばれれば、
我が道楽チェーンとポリアフとペレの眷属との絆は完璧になり、
ひいては弾正台の利益にもつながるのですわ!」
「望まれるウチが華だぞ」
音音とキザクラたちに冷やかし半分に勧められるクボタは、
「そりゃリノさんは可愛いとは思いやすが、
英語わかんねえし、なんつってもハワイは気候がね…。
油断するとお皿が乾いちまって…」
とシェイブマニア裏のパティオで休憩中の音音たちに半べそで訴えた。
「デハ、日本語話セバ問題解決ネ?」
いつの間にか現れたリノが、
そう言ってクボタの腕にまとわりく。
「アナタホドノダンサー、ハワイニモ殆ドイナイ。
リノ日本語オボエル、クボタ是非リノノハズバンドナル」
「え リノ、いつの間に日本語を…」
狼狽するクボタをよそに、
「長老タチニ、暫クハ日本デ、
ハニームーンヲ楽シムガヨイト言ワレタノデ付イテイク」
と言ってクボタの腕にまとわりついた。
「リノ、我が<金のタコ焼き道楽>で修行なさいますか?」
と音音が聞くと、
リノが目を輝かせてガクガクと頷いた。
「―――決まりですわ!
道楽チェーンの寮に入れるようにさしあげますので、
これで衣食住問題はないのですわ」
そう言ってすっくと立った音音。
「それでは現地要員を残して、
日本へ帰りましょう!」
「あ、姐さん、ちょっと…」
追いすがろうとするクボタを無視して、
「キザクラ、すぐに飛行機の座席を手配して」
「わかりやした。で、タチアナの姐さんとこはどうしやす?
生憎自衛隊機は今しばらくはこっちに来ないそうで…」
となると、民間の飛行機となるが、
あの大人数を民間機に乗せると相当かかるので、
「確か横須賀に帰還するリベラル米軍の空母モールトンが停泊してたはずだから、
それに便乗できるように計らってちょうだい」
と言うと店のスタッフに帰国する旨を伝え、
エプロンを脱ぎ捨てた音音は、
迎えのリムジンに乗り込み、
リノを伴ってダニエル・K・イノウエ空港に向かった。
190815j1.jpg
「お膳立てはしてさしあげたので、
後はあなた次第ですわ」
「リノ頑張ル」
そんな一途なリノの中に大好きな結絵の面影を見出した音音。
「私も早く結絵ちゃんに会いたくなりましたわ」
数時間後、機上の人なった音音は結絵の夢の中でたゆたっていた。

おわり
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「二楽亭へようこそ!」 ハワイ細腕繫盛記 その13 [小説]

そこに、
「よっしゃ、準備完了~~~っ!」
というキザクラの大音声が響き、
火炎が氷の壁に向かって放射される。
「キザクラ遅い!」
「すいやせん~、遅れた分は派手にやりますぜ~!
とりゃ~~っ!」
190731j1.jpg
キザクラ以下ボスネセンスキー鬼兵団の面々が、
火炎放射を開始するが、
氷の壁は一旦は溶けるものの、
再凍結していっこうに薄くなる気配が見えない。
「火炎放射器の燃料が尽きるのが先か、
雪ンバの妖力が尽きるのが先か…」
唸る音音の呟きを聞いた
キザクラの横で何もできずにいたクボタが、
「クソっ…俺にできる事は、
ファイヤーダンスで応援するぐらいしか…」
と焦れてダンスのステップを踏み始める。
すると、
火炎放射器の炎が幾分増したように思え、
クボタはさらに集中して踊り続ける。
明らかに炎の威力が増し、
氷の壁が徐々に後退を始めた。
「すごい…」
「Yes! Kubota!
Pray with all your heart,Kubota!
(そうです! クボタさん、もっと心を込めて!)」
リノの応援を聞いたナドワが、
「クボタさん! もっと心を込めて!」
と伝えるとクボタは目を瞑り、
トランス状態のようになり、
指先のしなやかさがぐっと増していく。
「あのCM撮りのときもキラウエアが噴火したんですが、
あれクボタさんの踊りの所為だってリノが言ってました!
クボタさんのダンスで、
火の神ペレの力で炎が増幅されているようです」
驚く一同にナドワが思い当たる節を話すと、
「河童ガード! 全員ファイヤーダンス!
クボタの踊るのを見様見真似でいい!」
と音音は河童たちに指示を出す。
河童ガードがファイヤーダンスに加わると、
炎は一気に威力を増し、
氷をなめるように溶かし、
雪ンバに肉薄し始める。
「あああ! 止めとくれ! 熱いっ! 熱いぃぃいっ!!」
遂に雪ンバに達した炎は、
キザクラたちが火炎放射をやめた今もメラメラと燃え盛り
悲鳴とともに雪ンバは立ったまま消し炭になっていく。
「火の神ペレの怒りにふれた…」
そうリノが呟くと同時にドサリと倒れた雪ンバだったものは、
粉々な砕けたあと雲散霧消した。

「オオゼキ! たぶん大丈夫だと思うけど周囲を警戒。
念のため格納庫周りに結果を張って頂戴」
リベラルアメリカに壊れた格納代を払わなきゃいけないですわと、
予想外の出費にげんなりしながらもテキパキと指示を出す音音。
「でもまあ、これで雪ンバという憂いが消えたのなら良しとするのですわ」
氷が突き抜けてポッカリ穴の開いた格納庫を見ながら、
この分の出費はカラマリボールで、
是が非でも元を取らねばと思う音音であった。

第13話おわり
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「二楽亭へようこそ!」 ハワイ細腕繫盛記 その12 [小説]

「ぎゃー、折れるっ折れるぅーっ!」
「この声…まさか雪ンバ…、
ははは、なんと本命が釣れるとはね…」
そう呟いてアメリカ兵士に変装していたキザクラが正体を現した。
「やかましいっ! どっちにしろ音音はもう死んだんだよっ!
早く放せって言ってるんだよっ!」
暴れる雪ンバの前に立って、
「見苦しいですわね…」
と吐き捨てたのは先ほど凶刃に倒れたはずの音音だった。
「化野…音々…どうしておまえ…生きて…る…」
血のシミが広がる胸にナイフをさしたまま
仁王立ちをしている音音を見て言葉を失っている女。
その肌から生気が失われ、
化けていた雪ンバが正体を現した。
「お久しぶりですわね…日本で見かけないと思ったら、
雪女のくせにハワイに潜伏してるなんて、
想像もしてませんでしたわ」
ほーっほっほっ! と高笑いしながら、
ナイフをはずしてみせる。
「マジック用の小道具ですわ。
あの氷にあなたが何か仕掛けたのは
同じ雪使いのリノが見抜いて処理しましたのよ。
ですから、
ボスネセンスキーの方たちには凍り付いた真似を
していただいたわけですわ!」
190623i1.jpg
それを受けてタチアナも、
「もともと難癖付けて
音音が殺されたふりして隠れる計画だったので
丁度よかったんだけど、
ご当人がお出ましなんて運がいいね!
あははは」
と言うと高飛車に笑いとばした。
ふたりの小娘にバカにされて雪ンバは、
怒りで真っ赤を通り越して
真っ青になっている。
「ぐうぅ…こうなったらみんな道連れにしてやるっ!
永久凍土に封じ込めてやるわっ!」
雪ンバが叫ぶと、
周囲の温度が急速冷えていき雪ンバを中心にして
見る間に氷塊が形成されていく。
「これは…総員退避!
事態は急を要しますわっ!!」
音音が指示すると同時に河童ガードが出口に向かって動いたが、
ドアがすでに凍結して、
河童の怪力でもビクとも動かない。
「みんな氷ついて死ぬんだよっ!」
「くそっ!」
ホルスターから素早くイジェメック MP-443を抜いて連射したタチアナだったが、
弾丸は途中で凍り付いて霜が付き、むなしく床に散らばっていく。
兵員も各々撃ちまくるが
妖(あやかし)には絶対の威力を発揮するヒヒイロカネの弾丸も、
届かないのでは話にならない。
氷がさらに厚さを増し、
満員電車さながらに身を寄せあう中で、
タチアナが音音に、
「まさかあんたと心中することになるとはね…」
と呟くと、音音は、
「最後まであきらめてはいけませんわ!
出来ることはすべてします!」
と、まっすぐにタチアナの目を見て答えた。

第12話おしまい
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