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二楽亭へようこそ! 「ふたりの母」その2 [小説]

雪の勢いは衰えることなく、
生徒会室に出向くころには、
校舎の一階の窓に届こうかというぐらいに積もっていた。
「こんなに雪が降ってるのはここ西御門(にしみかど)だけだそうです。
言うまでもなく、妖の仕業ですね。
今、隠神(いぬがみ)先生に調べてもらってるので、
この事態を引き起こしている発生源が見つかり次第排除してください」
生徒会室の中で、生徒会長・宮本鳩太郎(きゅうたろう)が、
外の様子を見ながらしゃべっている。
「たたた、たまには他の十三部集の方たちが
退治なさってもよろしいと思うのですけれど、
いかがかしら…」
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音音は寒いのが嫌で反抗を試みるも、
「十三部の仕事は、
一日3便しか電車が出ない地方への出張とか、
トイレの神様を説得したりとか、
地味な仕事が多い上に、
授業を休んだ分は補講になりますが、
そちらがよろしいですか?」
と逆提案され、すごすごと引き下がった。
そこに隠神(いぬがみ)先生が入ってきて、
「目撃者の証言では、
着物を着た女性が冷気を吐いてたのを見たっていう話だ。
まあ、十中八九雪女だろうな…」
それを聞いていた音音が、
「し…しかたないですわね…。
ではさっそく退治にまいりましょう」
と言うと、
生徒会室を出て行った。
それを小走りに追いかけてきた結繪は、
「音音~、悪いこと考えてる顔してる…。
ちゃんとこなさないと、
あとで痛い目みるよ」
と言うと、
「な、何をおっしゃるの結繪ちゃん、
雪女を捕らえられば、
西御門(にしみかど)の夏の電気料金が
下がるなと思っただけですわ…」
と明らかに動揺した返事を返す。
「あっ…急に持病の腹痛が…」
と言って立ち止まった音音は、
「ちょっとおトイレに寄ってから行きますから、
先に子狐丸と狐が崎を取りに行ってて
くださいまし…」
と部屋に置いてある愛刀を取ってきてくれるようにお願いすると、
後ろも見ずにトイレに駆け込んでしまった。
個室に入りドアに鍵を掛けた音音は、
スマホを取り出して、
化野家の警備を担当する
河童のキザクラを呼び出した。
「キザクラ、第一種雪山装備で、
至急人数を揃えて頂戴。
相手は雪女、
委細は任せるから、これを捕獲後、
道楽ラボに拉致りなさい」
「--ガッテンだ」
というキザクラの返事を聞いた音音は、
ニヤリとほくそえんで
結繪のあとを追いかけるためにトイレを出た。

つづく
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二楽亭へようこそ! 「ふたりの母」その3 [小説]

音音が武道棟の入り口に着くと、
結繪が刀をふたふり、
<小狐丸>と<狐が崎>を持って出てきたところだった。
「はい」
と結繪が音音の愛刀・狐が崎を渡すと、
結繪のスマホが鳴り始めた。
「Qちゃんからだ…んーと--
<美術室に入った> --だって、いくよ音音」
画面の内容を伝えた結繪が走りだすと
音音は化野家専用秘密回線をそっとオンにして、
「対象は美術室、妨害よろしく」
と小声でつぶやいてそのあとを追った。

校舎に戻ろうと昇降口に行くと、
何故かドアが閉まっていて、
開けようとしても鍵がかかっているようで開かない。
仕方なく裏に回るとそちらも閉まっている。
「これって…雪女の仕業なのかな…?」
(ナイスですわキザクラ!
いまのウチに雪女を確保するのですわっ!)
「窓ガラス割って入ろう」
そう言って、
結繪が愛刀小狐丸の鯉口を切るのを音音が止めた。
スマホを取り出しながら、
「昨今ガラス代も馬鹿になりませんので、
サブを呼んで開けさせますわ--あ、サブ?
校舎の玄関の戸に鍵がかかってて入れないから開けて」
自分の要件を言い終わると、
三狼の返事も聞かずにさっさと電話を切ってしまった。
しばらくして、鉄製の扉の向こうで、
ガーンという音がして、
ゆっくりと扉が開いた。
「鍵がひん曲がってた…」
ぼそっと三狼がつぶやくのを聞きながら中に入ると、
「美術室の方に雪女がいるらしいの。
確保するから、三狼もいっしょにきて」
と言って結繪が走りだした。
美術室のある3階に着くと、
あたりの壁や天上には霜がはり、
床は氷ついて滑りやすくなっている。
「転ばないように、
足全体に体重をかけるといいのですわ」
と音音が言うそばから、
結繪が滑ってバランスを崩した。
それを後ろか抱きとめた音音--。
結繪を愛してやまない音音が、
鼻孔をくすぐる甘いシャンプーの香りをかいで、
しあわせそうにうっとりとしている。
ちょっとわたわたした結繪は、
三狼の手を掴んでバランスを立て直して、
「ありがと」
と言うと3階の美術室を目指して
階段を軽やかに駆け上がっていく。
階下に取り残された音音の瞳に、
一瞬スカートが翻り、
白いショーツがチラリと映った。
160110i1-2.jpg
「はわわ~…が、眼福ですわ~」
思わぬ収穫にめまいがしそうになるのを何とか抑えて、
音音もふたりの後を追った。

つづく
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二楽亭へようこそ! 「ふたりの母」その4 [小説]

第4話

しかし問題の美術室に到着してみると、
すでにそこはも抜けの殻で、
雪女の姿はどこにも見えなかった。
学園上空をどんよりと覆っていた雪雲も消え、
いつの間にか晴れ空に変わっていた。
雪はその日のうちにとけ、
雪女の件はうやむやのうちに終わりを告げた。

その夜、
化野家の地下にある防災司令部の中の一室。
凍りついた室内に、
目隠しに猿轡(さるぐつわ)をされた白装束の少女が
拘束帯の付いた椅子に縛り付けられていた。
「よくやったわキザクラ」
「いや、実際寒くて寒くて…。
お皿の水が凍って、凍傷になるかと思いましたよ」
部屋の中に入ってきた音音とキザクラは、
防寒装備を通り越して、
宇宙服を着込んでいた。
キザクラが目隠しと猿轡を外すと、
少女は正面にいた音音をきっとにらみつけた。
「手荒なことをして悪かったわね。
でも学校であんな豪雪を降らせたら、
幽冥世(かくりよ)へ強制送還
されてしまいますわ」
「え!?」
それを聞いた少女の表情が少し不安な感じなる。
「私は化野音音。鎌倉府弾正台で
No.2の弾正忠(だんじょうのちゅう)をつとめておりますわ。
あなた、お名前は?」
「……ボクは…雪…。
おかあさんを探してるの…」
「雪ちゃんですか…。お父様は?」
「…いない…」
(孤児(みなしご)の妖怪ですか…)
雪女というと、ひとりで出没というイメージが強いので、
独立志向なのかと思っていたらそうでもないのかと
ひとり得心した音音は、
「お母様をお探しでしたら、
私のお店<かまくら甘味道楽>で、
働いてみてはどうでしょう?」
と申し出た。
「え?」
怪訝な顔をする雪に、
さらに音音が続ける。
「私のお店は、
古都鎌倉にあって、雪で作ったかまくらの喫茶店なのですけど、
結構マスコミに取り上げられますの。
そこであなたが働いているわけを話せば、
きっとお母様が見つかるはずですわ」
少し考えた雪は、
椅子から立ち上がると、
「--弾正忠様、
どうかボクを<かまくら甘味道楽>で働かせてください!
お願いします!」
と言いながら頭を下げた。
「よろこんで。
じゃあ、この書類にサインして頂戴。
朝夕の食事付き、大きな露天風呂もある
従業員寮に部屋を用意するから、
そこに住むといいですわ。
それから私のことは、
音音と呼んで欲しいですわ」
と言った音音は、あらかじめ用意しておいた契約書を渡すと、
それにサインするように促した。
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つづく
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二楽亭へようこそ! 「ふたりの母」その5 [小説]

第5話

雪を寮に送り届けた帰りの車で、
「姐さんも、いいとこありやすねえ」
と関心するキザクラに、
音音は、ちらっと視線を送るとほくそ笑んだ。
「雪のない鎌倉で、
雪を確保するのが大変だったのですわ。
西御門学園に降ったあのきめ細かい雪を
ご覧に成ったでしょう?
夏になってごらんなさい、
本物の雪娘の作ったかまくらで、
パウダースノーかき氷!
長蛇の列は必至ですわ!」
「さ…さすが姐さん…」
リムジンの向かい側の席で関心するキザクラをよそに、
スマホをダイヤルした音音。
「衣装部に連絡して、
雪用に丈の短い白い着物を用意させなさい。
裾にはフリルをあしらって、
男性客の期待値を
いやがうえにもたかめるのですよ」
「…骨までしゃぶる気だな…」
「何かおっしゃいまして?」
「いえ、さすが戦略家だと思っただけで…」
軽口を音音に聞き咎められたキザクラは
車が本宅に到着したのをこれ幸いと
慌てて走りさった。

翌日<かまくら甘味道楽>の事務所で、
制服だと言って着物を渡された雪。
着替えて見ると、
裾がひざ上30センチという過激なミニスカ状態。
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「こ、これを着るんですか?」
顔を赤らめた雪が、
(きっと何かの間違いですよね)
という淡い希望を抱きながら音音に確認するが、
無常にも、
「間違いなく雪、あなた用のものですわ」
とダメ押しされてしまった。
「で、でもボクこんな
女の子女の子した着物は…」
一瞬ためらいを見せた雪に、
「大丈夫、似合いますわっ!
それにこれなら話題性十分ですから、
マスコミも喰い付いてくること
必至なのですわっ!
そうすればマスコミへの露出度も上がって
きっとおかあさまも
気づいてくださるに違いないのですわっっ!」
と弱点をえぐるように諭(さと)して納得させてしまった。
「わ、わかりました…ボク、
がんばりますっ!」
母親会いたさに必死の思いで着替えた雪が
着替えて更衣室から出てきたのを見て、
「イケる! 
このビジュアルに萌えない男はいませんわっ!
この私が100%保証するのですわっ!!」
興奮状態になった音音が、
雑誌やメディアに取り上げさせようと、
スマホでマスコミ関係者に連絡を取りはじめる。
その間も部屋の中で控えていた、
キザクラたちがレフ板をかざして
ポスター用の写真を撮り始めていた。
「写真データ選んだら、
すぐレイアウトに出して!」
こうして出来上がったポスターは、
貼りだした当日にほとんどが盗まれてしまうほどの出来栄えだった。

つづく
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