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「二楽亭へようこそ」その14 [小説]

第4章 その3

「だれ? このヒュースケンって?」
結音音ヒュース.jpg
メールに犯人として名指しされた外国人ヒュースケンという名前には
まったく聞き覚えがなかった。
いっしょに送られてきた画像は
江戸時代ぐらい昔の人が描いた
馬に乗ったヒュースケンの絵だったけど、
写実性は全くなくて、何の参考にもならない。
「幕末にアメリカ公使ハリスの通訳として来日して、
麻布で薩摩藩士に斬り殺されたアメリカ人男性ですわ」
「…はぁー、音音、ホント細かい歴史のこと、
良く覚えてるね。でも、そんな死人がなんで…」
「誰かさんが復活させたんだと思いますわ。
得意のキセキとやらで――」
その声を遮るように、キテレツなイントネーションな男の声が響いた。
「oh、誰かさんとは失敬な。
我が主はホントにスバラシお方デース。
故国にも帰れず、彷徨っていた私の魂をお救いくださり、
肉体に戻してくださったのですyo!」
いつの間にか前方に、
割と筋肉質で、メキシコ人っぽい
ごっつい顔つきの外人の男が立っていた。
「弾正尹・那須野結繪殿と
弾正忠・化野音音殿デスね? 
音音さん、あなたもいたとは、ちょっと計算違いですが、
ま、いいでしょー。お初にお目にかかりマース。
私、オランダはアムステルダム生まれのアメリカ人、
ヘンリー・コンラッド・ヨアンネス・ヒュースケンと申します。
以後よしなニ」
「名前ながっ! 
なに? この良く喋る人…」
「結繪ちゃん、
彼がリビングデッドのヒュースケンですわよ」
「えっ!? さっきの絵の人?
全然似てないじゃんっ」
それを聞いていたヒュースケンは、
「……まったく…、
あの絵デスカ。あの絵も酷かったですガ、
今度は生きた死人扱いですか…ふー…」
とひと息ついたかと思ったら、
額に青筋をたてていっきにまくし立ててくる。
「この国の野蛮人どもは、
私をカタナブレードで斬殺し、
あろうことか異教のテンプルに葬ったんでス!!
そのうえ、キセキにより復活した私をリビングデッド呼ばわりとは! 
まさに神をも恐れヌ行いなのデース!!!!」
なんか目つぶって、握りしめた拳がぷるぷるしてる。
ナルっぽいよこの人…。
「150年ぶりに蘇ってみレば、
この国では、まだマダやおよろずという
異教の神とその信徒どもが跋扈(ばっこ)してル様子。
とりあえず、鎌倉に来る途中、
横須賀線で見かけた、
無学で無軌道で無宗教でキレやすそうな若者を
コンヴァーションさせて連れてきましたヨ!」
それを合図にしたかのように、
ガサガサという音といっしょに、
ヒュースケンの背後の山から、鬼どもが数体現れた。
「こんばーじょんってなに?」
「宗教とか宗派とかを変えさせることですわね」
「ディアボロに感染させて?」
「そのようですわね」
そんな会話をしながら、油断なく周りを伺うと
山の中にまだかなりの気配がする。
20体はいるなぁ…。
「こうも簡単に西御門の結界を破られるなんてね」
「結界は生きてますわね。
――来ます。左の7体をお願いしますわ」
鬼化しちゃうと、筋力は数倍になるし、
凶暴化した上に恐怖心が無くなるから始末が悪いんだよね。
オマケに元々人間だから、
派手に壊すことも出来ないし…。
「先ほど、生徒会長にメールを送りましたので、
間もなく援軍がくるかと――」

第4章 その4につづく
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