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「二楽亭へようこそ!」 ハワイ細腕繫盛記 その10 [小説]

「さあ、できましてよ」
木を紙のように薄切りにして作った
経木トレイに盛られたカラマリボールが
つぎつぎとロシア人の先頭の男に手渡されていく。
「串にさしてひとつづつお取りあそばして…
行き渡りましたか?
それではどうぞお食べください!
プリャートナヴァ アペティータ(召し上がれ)!」
音音に言われるまま、
熱いカラマリボールを口に含んだ男たちは、
最初はふはふ口の中で遊ばせいたが、
味がわかると破顔して、
「フクースナ!(おいしい)」
「オーチン フクースナ(すご、うまっ)」
と満足げだが、
10人にひとりが咳き込みながら悶絶した。
「今回特別に当りにはデスソースを入れておきましたわ」
その中の一人にはタチアナも含まれていて、
「――音音っ! 
か…可憐な美少女にっ…はっはっ…
こんな辛いモノっ…はっはっ…
食べさせてっ…はっ--っ!
殺す気っっ…ゲホゲホっ! はっはっはっ…!?」
と涙ながらに訴えてきた。
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「タチアナさん、
新至命者に列っせられてから何年たちました?
もう少女ではありませんでしょう?」
「体は少女だからっ! ゲホゲホっ!」
音音もさすがに可哀想だと思ったのか、
「今回はデスソースでしたけど、
普通はタバスコ程度ですから…。
これには何も混入してませんから
安心して口直ししてくださいな」
と言いながらカップに入ったかき氷をタチアナに渡した。
こちらにも何か入れるという、
外道なお笑い芸人のような真似もできるのだが、
信頼をそこねるのでちゃんとしたかき氷を出すように指示してある。
他のデスソース入りカラマリボールを食べた男達にも
かき氷が振る舞われ、
そのかき氷のおいしさにびっくりして、
「オ――――チン 
フクースナ(すご――――、うまっ)」
と叫んでガツガツとかき込んで、
頭が痛くなりその場でしゃがみ込んでいる。
「ち…ちょっと音音、
これ大丈夫なんでしょうね?」
一刻も早く食べたいタチアナだったが、
さすが元ロマノフ皇帝家の皇女だけあって、
今度は辛いのを我慢して慎重に配下の様子を伺っている。
「こんなの単なるアイスクリーム頭痛にすぎませんわ…」
そう言いかけた音音だったが、
へたり込んでいる団員たちの口から、
「ううっ…さ、寒い…」
という声が漏れるに至ってその表情が急に曇った。
「いけないっ! 
雪ん子を連れてきて! 急いでっ」
音音は格納庫の奥に向かって叫んだ。

第10話おわり
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