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「二楽亭へようこそ!」 ハワイ細腕繫盛記 その5 [小説]

「How do you make it!?  Please teach me!」
「まあ構いませんけど…」
答えながら鉄板を掃除して,
新たに油をひいていく。
「では作りますわ」
生地を鉄板の上に流すと、
じゅわーっという音と共に広がっていく。
冷蔵庫を開け、タコの入ったタッパーを見つけると、
ポツポツと穴に入れ、
続いて揚げ玉、紅ショウガを全体に振りまいていく。
「Did you understand it ?(ここまではおわかりですか?)」
「OK、Please continue it(いいわ、続けて)」
「 Look well」
ピックを持った音音は、
それをゆっくりと鉄板上に左右に走らせ、
それが終わると上下に走らせてスクェアに切り分けた。
流し込んだ方から、
ピックをくるくると回すようにして、
生地を器用にまとめてひっくり返すと穴の中に押し込んでいく。 
全部を入れ終えると、
ひとつひとつを半周させて焼き位置をかえること2回、
タコヤキを完成させた。
「 amazing…!」
と言うと、
「Do not you work in our shop?
1000$ per week…」
うちで働かないかと、
顔をぐいっと近づけ、
まくしたてるように誘ってきた。
181030i1.jpg
「ち…ちょっと近いですわっ…。
いえ、わたくしには仕事がございますから、
ここで働くことは…」
本来日常会話レベルでは、
問題なく英語を喋る音音だったが、
大好きな結絵ちゃんに似た少女に接近されてドキドキしているので、
自分が日本語をしゃべっていることに気づいておらず、
会話が成立しない。
そこに騒ぎを聞きつけたナドワが現れ、
「どうしたのリノっ? 
あ、あなた化野さんじゃないですか!?
どうしてここに??」
と英語で話しかけられて、やっと我に返った音音は、
自分が日本語をしゃべっていたことに気づいて、
英語での会話に切り替えた。
「あら? ナドワさん、
おひさしぶりですわ。
こんなところで会うなんて奇遇ですわね…。
いえ、ちょっと、タコヤキの焼き方をご教授して…」
まさかナドワをつけて来たとも言えず、
半分だけ本当のことを言ったものの、
怪訝(けげん)な顔をしているナドワに
リノと呼ばれた少女がだいたいの状況を話したらしく、
「おー、でも化野さんは大富豪なので…ちょっと無理ですよね?」
と申し訳なさそうに聞いてくる。
「そうですわね…ところでどうしてタコヤキショップを
開業なさったのでしょうか?」
音音は答えながら、逆に気になっていた事を聞きいてみる。

第6話につづく
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「二楽亭へようこそ!」 ハワイ細腕繫盛記 その6 [小説]

「それは…ちょっと言いづらいのですが、
私たち本土のネイティブと違い、
リノたちハワイアンの精霊使いたちはちょっとマネーに不自由してます…」
「それでタコヤキ?」
「はい、リノに私が日本で食べたタコヤキが美味しいという話をしたら、
動画サイトで作り方見てハマって…」
「それだけでタコヤキを? …無茶ですわ…」
(あ…でも、ここで恩を売っておけば…)
そう判断した音音は、
「いえ、わたくしでできることなら協力させていただきますわ」
といかにも謙虚に聞こえるように答えた。
「本当に? うれしいっ! 音音、ありがとうっ」
それまで蚊帳の外に置かれていたリノが、
音音の手を両手で取ると激しくシェイクしてくる。
181117j1.jpg
そんなリノの目を見つめながら、
音音はちょっとした心配の種、
ハワイでタコって食材は大丈夫なのかを聞いてみた。
「ネイティブは食べますし、
観光客も食べれば大丈夫だと思うのですが…」
この自信のない返答…タコといえば、
デビルフィッシュとして食べない人もいる食材だけに不安が残る。
それにただのタコヤキではインパクトが足りない。
しかもここ数年世界的不漁で単価が上がっているのも問題だ。
そこで、
「タコではなく、イカを使ってはどうでしょうか?」
「カラマリですか?」
「そう、カラマリボールですわ。
カラマリでしたら皆さんお好きでしょ?
その中の一つにタバスコをたっぷりいれてスペシャルホットボールにする…
名付けて『ロシアンカラマリボール』ですわ!」
「味は大丈夫なの…?」
不安そうに聞いてくるナドワに、
「もちろん大丈夫ですわ。お好み焼きってご存知?」
「あ、はいっ…そうかっ!」
「そう。カラマリはタコヤキと同じ粉もののお好み焼きのメジャーな具材ですわ」
「おー! グレイト!」
「それと我が化野道楽グループの<シェイブアイスマニア>と提携しましょう!」
「えっ あのシェイブアイスマニアって化野サンのお店だったんですか?」
先日の地震の後のホスピタリティで有名になったおかげで、
そのあとの話はとんとん拍子に進み、
リノのタコヤキ…いやカラマリボール屋は
<デンジャラス! ロシアン・カラマリボールマニア>
として再スタートすることで合意した。
「そこで相談なのですが、
じつはハワイの暑さのせいで、
氷を作っている雪女たちがバテてしまって…。
ハワイの女神ポリアフの眷属の精霊に
冷たい部屋を作ってもらうことはできでしょうか?」
音音がそう言うと、
二人の表情が目に見えて曇った。
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