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二楽亭へようこそ![されどバナナ、なれどバナナ」 その8 [小説]

第8話

電車のドアが開いた途端、
3人はそっと最後尾の車両から抜け出していく。
中ほどの車両に乗っていると報告をうけている敵が車両に乗り込むのと
入れ違いになるように飛び出したので、
少しは時間がかせげるはずと判断したが、
バレるのは時間の問題だ。
ホームから路線に飛び降り、
脱兎のごとく線路を横断すると、
フェンスを乗り越え、
街中の雑踏の中へ紛れ込んだ。
バナナを会場に届けるためには、
迂回するにしても最終的には東に向かう選択肢しか選べない。
そう言う意味で、
伊豆半島の根元にある熱海は、
東は海、
西が山になっており、
海岸線を南北に走る熱海海岸自動車道と
その少し山側を走る国道135号線以外は、
港で船に乗るか険しい山道を行くしか手がない。
当然、港や山道にはすでに人を配してあり、
蟻のはい出る隙間もなかった。
だが、海岸へそそぐ初川添いに海に向かうと、
ビーチの警備は比較的手薄で、
三人は即座に泳ぐという選択肢をチョイスした。
「あいつら、おれらが河童だってこと忘れてるんじゃないか?」
そう言うコクリュウに、
「罠なんじゃねえの?」
と慎重論を唱えるアラマサ。
それにオオゼキが同調した。
「罠…だろうな…。
だが、山道じゃあどうしようもないが、
水の中なら俺たちに利がある」
オオゼキはそう言いながら
バナナが海水に濡れないようにパッキングする。
「熱海の沖は流れは早いといっても、
激流育ちの俺たちなら大丈夫だ。
まずは小田原を目指す、
そう弾正台に伝えて134号線沿いの拠点に増援を乞え」
周りを見回して、安全を確かめると、
「行くぞ」
と指で合図して海に向かって走りだした。
いざとなったら川伝いに海に逃げられるように、
初川の横を下る道を疾走するオオゼキたちは、
もう少しで海という場所まできたところで、
外国人観光客の団体に道を塞がれてしまった。
ほぼ老人な団体で歩きが遅い上、
人数が多いのでなかなか列が途切れず、
海のある道の向こう側へ渡ることができない。
そのときふと、
団体客なのに、
誰もしゃっべていないことに不穏な空気を感じたオオゼキは、
「川に降りる! 急げ」
というとオオザキたちの真横を流れる初川に降りて浅い川の中を走り出した。
其の途端、
団体客たちがカバンの中からそれぞれ拳銃を取り出すと、
オオザキたちに向かって発砲し始めた。
「クソっ! やはり待ち伏せか」
なんとか弾をよけていたものの、
多勢に無勢、しかも拳銃を容赦なく撃ってくるので、
さすがの河童たちもだんだんと動きが鈍ってくる。
(もう少しで海なんだが…)
「ここは俺にまかせろ! お前たち、
なんとしても雨林23号を音音さまにとどけるんだ!」
「だけど、オオゼキさん…」
「行けっ! 俺ひとりの方が動きやすい!」
懐から拳銃を取り出して言うと、
ふたりの背中を押す。
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「分かりましたっっ! ご武運を!」
ふたりが走りだすと、、
防御に徹しながらその場に踏みとどまったオオゼキは、
海に向かおうとする敵を
自在に伸びる手を使って、次から次へ引きずり倒していく。
(これならなんとか逃げ切れそうか…)
そう思ったオオゼキをあざ笑うかのように
初川の流れ込む先の海面が急に盛り上がり、
数本の触手が姿を現した。
「しまったっ! コクリュウとアラマサが危ない!」
掴んでいた敵を敵集団に向かって投げ飛ばすと
ふたりの後を追おうとするが、
いつの間にか幾重にも陣を張られ、
分厚い壁になって、海へと向かうことができない。
「くそっ! どけえっ!」
苛立ったオオゼキの怒声だけが、橋の下でむなしく残響していた。

つづく
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