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「二楽亭へようこそ」その16 [小説]

第4章 その5

さらに、何か技を繰り出すつもりなのか、
ヒュースケンの腕が
バチバチと音を立てて帯電してる。
こちらは、ただ待ってるのも芸がないので、
「マッチョは女の子に嫌われちゃうよ~」
と茶化してみる。
「ぬううぅ!! 使徒に対して
どこまでも傲岸不遜なその態度っ!
極東の三等人種に災いあれっ! 
天罰覿面(てきめん!)
The Last Judgement――――ッ!!
(ザ・ラスト・ジャッジメント!!)」
怒りで顔をまっかにして、
そう叫びながら帯電した腕を振り下ろしてくるヒュースケン。
その横っ面に、
上空から降ってきた男子生徒ふたりが、
思い切り蹴りを浴びせる。
「ぶるるぁあああっ!!」
ワケの分からない叫び声を上げて、
ヒュースケンは地面に転がった。
そのヒュースケンを蹴り飛ばした反動で後ろに飛んで、
くるくると三回転して着地した男子生徒は、
「日出(いず)る日ノ本に対し、
極東とは不遜(ふそん)な物言い。
バテレンの暴言聞き捨てならん!! 
鎌倉府弾正府猫部司(びょうぶのつかさ)
石田敏夫見参っ!」
と言い放ってポーズを取ると、
細長い手裏剣の一種・飛苦無(とびくない)を取り出した。
偵察や工作が主な仕事になる猫部は、
身の軽い生徒が多いんだけど、
そのなかでも司を勤める石田は、
弾正府でも1,2を争う機敏さで有名な生徒。
つま先でとんとんとリズムを取りながら、
いつでも攻撃できる態勢を取ってる。
「近衛二番隊筆頭三峯三狼…」
そう言って、すっと立ち上がったもうひとり、
三狼は私の幼なじみ。
頭の左に角が生え、
左手と左足が鬼化している。
その姿を見た血まみれのヒュースケンが、
「ヘイ、ユ――ッ! 
ディアボロに感染して、
何故その力を制御しているのデスカ―――っ!?」
と驚いた様子で叫ぶ。
私と音音、それから十三部衆は、
契約した神やあやかしたちの庇護(ひご)下にあるので、
通常の鬼化ウィルスが発現することはまずない。
だけど、ディアボロウィルスは、
そんな私たちでも感染すれば発現する。
それほど強力にディアボロは遺伝子操作されている。
三狼は、ここ数ヶ月に渡って発生している、
鬼たちが起こす一連の事件のさ中、
ディアボロに感染し鬼化してしまった。
普通なら凍結処分にされるところなんだけど、
三狼は発熱と自分の精神力でウィルスを押さえ込み、
今は力が必要なときだけ、
鬼化することができるようになっていた。
「精神一統何事かならざらん、
つまり気合いってヤツだよ」
黙っている三狼の代わりに石田がそう言うと、
飛苦無をヒュースケンの影に投げつけ動きを封じてしまう。
とどめとばかりに、みぞおちを思い切り蹴りつけると、
「ve…verdammen…」
と呻いて、ヒュースケンは気を失ってしまった。
「ふぇ…ふぇあ…だ…? 
音音、このおじさん、今なんて言ったの?」
「フェアダンメン、ドイツ語で“畜生”ですわ」
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「ど、ドイツ語…。音音、ドイツ語も分かるんだ~…」

その6へつづく
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