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「二楽亭へようこそ」その12 [小説]

第4章 その1

鎌倉府のもっとも重要な霊的方角は、
鶴ヶ岡八幡宮の艮(うしとら)にあたる西御門(にしみかど)。
その艮=鬼門に府立西御門学園は立っている。
校舎のすぐ裏が山になっているので、
体育館の裏などは、うっそうとしていて、
昼間でも薄暗くて不気味な感じがする。
そんな体育館裏の道を、
長い髪を、リボンで後ろにまとめた
高等部2年・那須野結繪が歩いている。

その細い腰には、
ホルスターのようなベルトに、
大刀と小刀を帯刀(たいとう)している。
結絵が体育館の角に近づくと、
その前方を、3人の男子生徒が塞(ふさ)いだ。

どんな学校にも『不良』と呼ばれる類は存在するけど、
私の通う西御門学園は違うと思ってた。
でも、今、私の目の前にいるのは、
この禁煙主流のご時世に、
この若さでタバコふかしている、
いかにも頭の悪そうな男子生徒3人。
これはどう見てもステレオタイプの不良男子生徒だよ…。
「高校って、
別に義務教育じゃないんですから、
そんなアピールしてまで、
学校に来る必要なんかないんじゃないですか…」
「なんだとっ!?」
「ここが近道なので、通りたいだけです。
ただ…私の通り道で、タバコを吸って欲しくないなぁ。
――臭いから」
「それは俺たちにどこかへ行けってことか?」
「はい▽」
「なんだとっ!」
満面のほほえみで答えて上げたのに、
頭から湯気が出そうなほど怒ってる。
まあ、当然の反応かな。
「だいたいあなたたち、
ホントはウチの生徒じゃないでしょ?」
なんて言ったら、更に怒ったみたいで、
みるみるうちに変身していく。
筋肉が盛り上がり、
爪が伸びて、角が2本生えてきて……はい、鬼のできあがり♪
「やっぱり鬼化ウィルスのキャリアかぁ…」
日本人は、もともとこのウィルスの感染者が多いんだけど、
キャリア当人が思い切り落ち込んで、
更に陰の気を持ったあやかしに取り憑かれないと発現しない。
だいたい普通は、
発現すると言っても、
第1期では、キレたり、無差別殺人に走るだけで、
鬼に変身するケースなどほとんどない。
ところがこのウィルスに遺伝子操作して、
ちょっとキレるだけでも鬼に変身するよう細工したヤツらがいる。
今、ウチの生徒会や体育会文化部連合が、
必死で犯人捜しをしてる最中。
あ、ウチの高校、ちょっと特殊で、
異界=幽冥界との接点になってる鎌倉府を守護する弾正府を兼ねてるの。
だから、生徒の3/4ぐらいが、
ずーと昔から、
あやかしとの契約関係を持つ家の出身者とその家来筋で占めてる。
そして、そんな生徒すべてが、
天狐・葛葉ねえさまと契約している私、
弾正尹(だんじょうのかみ)・那須野結繪の配下になってる。
それ以外の一般生徒は、
文武のどちらかに優れた成績優秀な人しか入れないハズで、
こんな不良がここに居るはずがないんだよね。
「剣術は習ってるけど、
鬼相手に手加減出来るほどの腕前じゃないので、
あばらの2、3本は覚悟してね」
そう言いながら、
体勢を低くして愛刀小狐丸に手を掛ける。
結繪刀2.jpg

第4章 その2につづく

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