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「二楽亭へようこそ」その19 [小説]

第5章 その2

しばらくすると座も和んできて、
すっかり酔っぱらった葛葉ねえさまと静葉ねえさまが
カラオケに興じている。
音音は、
約束通り二狼にいさまの隣の席にしてくれたんだけど、
にいさまはヒュースケンの取り調べ中とかで、
まだ宴会には来ていない。
私の反対隣りには、三狼がいて、
黙々と食事をしている。
三狼とは子供の頃から、ずっと一緒にいる幼なじみ。
だけど、三狼ってば、
鬼化してからは、あんまり喋ってくれなくなった。
私は昔みたいにおしゃべりしたいのになぁ……。
「…あぶらあげ、おいしい?」
と唐突に聞いてみる。
「うまいよ…」
「そ、そう。よかったね」
「うん………」
(あんたが何か言ってくれないと、会話にならないでしょ?)
全然会話が繋がらなくて、
心の中で怒っているとこへ、
『♪じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、じゃ…』
という、賑やかなイントロとともに、
広間のモニターに人魚のアニメのPVが流れ始める。
(あっ、音音がねえさまたちの
ぴちばちびッちメドレーに巻き込まれた…)
このままここにいると、
私もマーメードの一員にされて、
“振り”まで強要されちゃうのは時間の問題かも…。
こんな心配をしなきゃけないのも、
宴会始まってから一時間にもなるのに、
三狼が何時までも食べ続けてるからだよ!
あんたとろくにおしゃべりも出来ないうちに、
宴会芸大会になっちゃったんじゃん。
「ね、もういっぱい食べたでしょ? 
この部屋暑すぎるから、ちょっと涼みに出ようよ」
「あ、もうちょっと食べたら…。
アレ(鬼化)するとすっごくカロリー消費するから
食べないと血糖値が下がっちゃうんだ」
「けっとうち?」
「下がると意識が朦朧(もうろう)とする」
「…って、糖尿病の患者さんみたいなこと言ってないで…!」
あー、もうイライラするとノドが乾く。
ふと目に付いた
隣の二狼にいさまの席に置いてあったコップを
ぐいとイッキ飲みすると、それはお酒――っ!?
手で口を押さえて、
慌てて洗面所に行こうとした瞬間、
後ろからガッと肩を掴(つか)まれた。
「結繪ちゃ~ん~、
貴女もいっしょに歌うのです~」
ごっくんっ――。
うー、マズー……!! 
思わず、お酒全部飲んじゃったよっ!!
狼狽(ろうばい)して振り返ると、
そこにはマーメードのコスプレをした葛葉ねえさまたちが居て……
……って貝殻のブラはイヤ―――ッ!
逃げようとバタバタするものの、
葛葉ねえさまたちの力にかなうはずもなく…。
「ささ、着替えよっ▼」
そう言って、下から扇で仰ぐと、
何か下から光がわき上がってくる。
一瞬まぶしくて目を閉じると、
もう次の瞬間には貝ブラ&魚しっぽのマーメードにされていた…orz…。
結繪水着.jpg
私がこんなことになってるのに、
三狼のバカは一心不乱にまだご飯食べてるし……。
二狼にいさまも来ないし、頭は少しぼーっとしてくるし、
もう、なんだかどうでも良くなっちゃって…。
カラオケがかかると葛葉ねえさまたちに合わせて踊って歌う。
あはは、おもしろーいっ……!
あれれ、なんで天井回ってるの……。

その3につづく
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