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「二楽亭へようこそ」その26 [小説]

第7章 その2

ぽかぽかした春の日差しの中、
霊園の隣にある公園では、桜が良い具合に八分咲き。
お墓参りが終わると、
二楽亭の狐耳メイドさんたちが宴会の準備をして待っていて、
そのまま花見宴会へなだれ込んだ。
その席で、鳩部司(きゅうぶのつかさ)兼生徒会長のQちゃん先輩が、
「――結局、成田から<聖釘>を持ち込もうとした男は、
結界に阻まれたのが死因のようです」
と報告すると、
「で、その遺品を受け取ったのが、
ゾルゲだった可能性が高いと…」
と音音が続ける。
「でも、ゾルゲって、
ナチスを装った共産主義者だったのでは…?」
音音がそう問い返すと、
「ダブルスパイどころか、
本当は第二契約者・極東オーソドクス教会の手先、
つまりトリプルスパイだったっていうことです」
静葉ねえさまが解説してくれた。
オーソドクス教会が唯一の主を信奉する宗教団体なのはわかるとして、
ゾルゲや“せいてい”なんていうのはよく分からないんですけど…。
なんて考えてる間も、
難しい言葉が私の上空を飛び交っている。
私、弾正尹なのに、
こんなことでいいのかな? と少し不安に思う。
あやかしたちが結界をはる日本。
本来地の利はこちらにあるはずなのに、
あの連中のパワーに押されている。
頭が足りないなら、
せめてその分体力が有ればいいのに…。
先代の弾正尹だった美沙おばあさまと
三狼の弦一郎おじいさまが、
相撃ちに近い形でシーボルトは封滅したけど、
二対一で、しかも命がけじゃないと倒せない相手なんて……。
そう考えると、
自然と額に皺が出来る。
「結繪ちゃん、元気ないのです…」
私の考えこんでるので、
心配した葛葉ねえさまが声を掛けてくれる。
「げ、元気いっぱいです!」
「そう? 元気ならいいんですけど。
結繪ちゃんが沈んでるとみんな盛り上がららいはら――」
あれ、葛葉ねえさま呂律(ろれつ)が回ってないんですけど…・
と、いうことは…相当出来上がってる!!
「だから、ね?」
というと葛葉ねえさまが言い、
扇を下から仰ぐようにすると…。
ああっ、やだこれ!
この前の宴会のときに変身させられたときと同じ……!!
「貝殻ブラはイヤ―――っ!!」
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私の恥ずかしさとは反比例するように、
その夜の宴会も、私と葛葉ねえさまによる、
『うにものがたり』のコスプレデュエットで、
大いに盛り上がったのでした…。

第1話 おしまい
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