「二楽亭へようこそ!」 ハワイ細腕繫盛記 その3 [小説]
10分後、
代わりの雪女たちを店に連れて行った音音。
「萌さん、ごくろうさまでした。
私が代わりますので、どうぞ休憩なさって」
と声を掛けるのとほぼ同時に地面が鳴動した。
「きゃあっ」
「地震!?」
日本人スタッフが驚いて声を上げる。
(少々大きいですわね…)
音音が感じた通り、
だんだんと大きくなり震度にするとちょっと弱めの4ぐらいの揺れが少し続いた。
地震に免疫のある日本人はほとんど動じないが、
それ以外の人間は日常生活においてほとんど経験することのない
大きな地面の揺れに悲鳴を上げて右往左往し始める。
行列に並んでいる人の中にも動揺して
座り込んだりする人たちはいたが、
同じ行列に並んでいる日本人たちが、
「No problem」
「Don’t worry」
「Earthquakes perhaps end 」
などと言って手を握ったり肩を抱いたりして安心させていた。
萌も素早く紙コップをトレイに並べると、
サーバーの珈琲を少しずつ注いで、
驚いている人たちに声をかけながら配って回り始める。
音音は空になったサーバーに改めて珈琲を落としながら、
(最近環太平洋での噴火が増えてる…
…キラウェアが大噴火しないといいのですが…)
と不安に駆られるが自然現象ではいかんともしがたい。
まあ、こればかりはなるようにしかならないですわ、
と思っている音音の耳掛けインカムの呼び出し音が鳴った。
「あねさん、すいやせん、
ダウンタウンのマーケットなんですが、
今の騒ぎでふたりを見失いました…」
「…仕方ないですわ、戻ってらして…」
答えながら、床に落ちたディスプレイ用の絵本を拾った音音。
その絵本には、
ハワイの女神の話が描かれていた。
人間の子に化けていた雪の女神ポリアフと
同じく女の子に化けていた火の神ペレが、
雪ソリで遊んでいるウチにエキサイトして
神の能力を使ってしまい、
ペレがわき出させた溶岩をポリアフが雪で冷やした為に
ハワイ島のラウパホエホエの奇岩風景ができたーー
という神話を題材にしたものだった。
ちょっとネットで調べてみると、
ポリアフは火の神ペレを凌駕する能力を持っているらしいことがわかった。
「これですわ!」
(ポリアフの眷属を捜し出せば、
店の有る一角を冷却するぐらい造作もないはずっ)
そう考えると、
今日見たハワイアンの精霊使いに聞くのが一番良さそうなのは明白!
――というわけで、9割は私用だとしても、
共闘関係を築くという1割の大義名分がある音音は、
堂々と弾正府を通じてナドワの居所をネイティブアメリカン会議に照会した。
ハワイアン協会でもあれば聞くのだが、
残念ながら組織されていない。
ところがに帰ってきた答えは、
「極秘任務中につきお答えできない」
というものだった――。
つづく
代わりの雪女たちを店に連れて行った音音。
「萌さん、ごくろうさまでした。
私が代わりますので、どうぞ休憩なさって」
と声を掛けるのとほぼ同時に地面が鳴動した。
「きゃあっ」
「地震!?」
日本人スタッフが驚いて声を上げる。
(少々大きいですわね…)
音音が感じた通り、
だんだんと大きくなり震度にするとちょっと弱めの4ぐらいの揺れが少し続いた。
地震に免疫のある日本人はほとんど動じないが、
それ以外の人間は日常生活においてほとんど経験することのない
大きな地面の揺れに悲鳴を上げて右往左往し始める。
行列に並んでいる人の中にも動揺して
座り込んだりする人たちはいたが、
同じ行列に並んでいる日本人たちが、
「No problem」
「Don’t worry」
「Earthquakes perhaps end 」
などと言って手を握ったり肩を抱いたりして安心させていた。
萌も素早く紙コップをトレイに並べると、
サーバーの珈琲を少しずつ注いで、
驚いている人たちに声をかけながら配って回り始める。
音音は空になったサーバーに改めて珈琲を落としながら、
(最近環太平洋での噴火が増えてる…
…キラウェアが大噴火しないといいのですが…)
と不安に駆られるが自然現象ではいかんともしがたい。
まあ、こればかりはなるようにしかならないですわ、
と思っている音音の耳掛けインカムの呼び出し音が鳴った。
「あねさん、すいやせん、
ダウンタウンのマーケットなんですが、
今の騒ぎでふたりを見失いました…」
「…仕方ないですわ、戻ってらして…」
答えながら、床に落ちたディスプレイ用の絵本を拾った音音。
その絵本には、
ハワイの女神の話が描かれていた。
人間の子に化けていた雪の女神ポリアフと
同じく女の子に化けていた火の神ペレが、
雪ソリで遊んでいるウチにエキサイトして
神の能力を使ってしまい、
ペレがわき出させた溶岩をポリアフが雪で冷やした為に
ハワイ島のラウパホエホエの奇岩風景ができたーー
という神話を題材にしたものだった。
ちょっとネットで調べてみると、
ポリアフは火の神ペレを凌駕する能力を持っているらしいことがわかった。
「これですわ!」
(ポリアフの眷属を捜し出せば、
店の有る一角を冷却するぐらい造作もないはずっ)
そう考えると、
今日見たハワイアンの精霊使いに聞くのが一番良さそうなのは明白!
――というわけで、9割は私用だとしても、
共闘関係を築くという1割の大義名分がある音音は、
堂々と弾正府を通じてナドワの居所をネイティブアメリカン会議に照会した。
ハワイアン協会でもあれば聞くのだが、
残念ながら組織されていない。
ところがに帰ってきた答えは、
「極秘任務中につきお答えできない」
というものだった――。
つづく
「二楽亭へようこそ!」 ハワイ細腕繫盛記 その4 [小説]
翌日、昨日の地震のときの対応がSNSで拡散した結果、
「シェイブアイスマニア」は、
開店前から行列ができはじめ、
開店直前には昨日以上の行列ができていた。
音音は、
ナドワと例の少女を,、
自分付きのSP=河童ガードに探しに行かせるつもりだったが、
店の行列整理と警備に回さざるを得ず、
自分ひとりで探しに出かけることにした。
(このままでは本当に雪女の子たちが参ってしまいますわ)
手かがりといえば、
昨日キザクラが見失ったのがダウンタウンだということぐらい。
(とりあえず東に行ってみましょう)
クレジットカードを提示すればタダで乗れるトロリーバスを使って
ダウンタウンのそばまで行くことにした音音。
こっちの方が地価が低いので、
新たな店舗探しも兼ねている。
ハワイ政庁前でトロリーを降り、
ダウンタウンへ入って行くと
あちこちの店舗から
おいしそうな匂いが立ち上っている。
そこそこ行列を作っている店もあり、
観光客もそこそこいるものの、
地元の人だと思われる人が多い。
(いいですわ! こちらなら地元のアメリカ人から
ドルを獲得することができますわ!)
費用対効果の面から見ても、
ある程度の店舗を借りても採算が盗れそうだと踏んでニンマリする音音。
その目の端に鳥の羽が目に入った。
(あれは…どこかで…そうだ! ナドワの髪飾り…)
そう思い至って彼女が入ったと思われる路地へと駆け込んでみると、
ナドワらしき後ろ姿があるお店に入るところが辛うじて見られた。
近寄ってみると、
看板には、
<ホノルルタコヤキ Honolulu TAKOYAKI!>
と店名が神社の千社札とかで使う、
勘亭流っぽい書体でデカデカと書いてあるお店だった。
(た、タコヤキ…??)
アメリカ人って蛸食べるのでしょうか? と疑問に思いながら、
お店の中に入ると、
中にナドワの姿はなく、タコヤキの匂いが漂っていた。
「イラッシャーイ! 何ニシマスカー?」
と鉄板の前でタコヤキを焼いている女の子が日本語で聞いてきたので、
ぱっと壁のお品書きを見たものの、
いろいろ書いてあって目が上滑りした音音。
「じゃ、普通の…スタンダードなのを…」
と無難に答えて、彼女の作るのを見ていたが、
まとめて丸くしようとしているものの、
ぐちゃぐちゃとなるばかりでなかなか丸くならない。
(これは…)
「ちょっと変わってくださいまし」
と言って、女の子を強引にどかすと、
ぐちゃぐちゃになっているひとつひとつをくるくると回して
丸い穴のなかに収めていく。
「OH! Miracle! Fantastic!」
と目を丸くしている女の子に、
「これが出来なくて,
よく焼き子を任されてますわねぇ?」
とため息交じりに呟きながら、
出来上がった分を経木のお皿に盛っていると
事務所から出てきたのは昨日ナドワと一緒にいた女の子だった。
一瞬何が起こっているのか分からなかったものの、
ちゃんとタコヤキが出来ているのを見て、
「コレ Can you make?」
と聞いてきた。
音音が竹串でひとつ突き刺して彼女の口にいれると、
メチャクチャ熱かったようで、
はふはふしながらなんとか食べきって一言、
「ヤミーっ!」
と叫んだ。
つづく
「シェイブアイスマニア」は、
開店前から行列ができはじめ、
開店直前には昨日以上の行列ができていた。
音音は、
ナドワと例の少女を,、
自分付きのSP=河童ガードに探しに行かせるつもりだったが、
店の行列整理と警備に回さざるを得ず、
自分ひとりで探しに出かけることにした。
(このままでは本当に雪女の子たちが参ってしまいますわ)
手かがりといえば、
昨日キザクラが見失ったのがダウンタウンだということぐらい。
(とりあえず東に行ってみましょう)
クレジットカードを提示すればタダで乗れるトロリーバスを使って
ダウンタウンのそばまで行くことにした音音。
こっちの方が地価が低いので、
新たな店舗探しも兼ねている。
ハワイ政庁前でトロリーを降り、
ダウンタウンへ入って行くと
あちこちの店舗から
おいしそうな匂いが立ち上っている。
そこそこ行列を作っている店もあり、
観光客もそこそこいるものの、
地元の人だと思われる人が多い。
(いいですわ! こちらなら地元のアメリカ人から
ドルを獲得することができますわ!)
費用対効果の面から見ても、
ある程度の店舗を借りても採算が盗れそうだと踏んでニンマリする音音。
その目の端に鳥の羽が目に入った。
(あれは…どこかで…そうだ! ナドワの髪飾り…)
そう思い至って彼女が入ったと思われる路地へと駆け込んでみると、
ナドワらしき後ろ姿があるお店に入るところが辛うじて見られた。
近寄ってみると、
看板には、
<ホノルルタコヤキ Honolulu TAKOYAKI!>
と店名が神社の千社札とかで使う、
勘亭流っぽい書体でデカデカと書いてあるお店だった。
(た、タコヤキ…??)
アメリカ人って蛸食べるのでしょうか? と疑問に思いながら、
お店の中に入ると、
中にナドワの姿はなく、タコヤキの匂いが漂っていた。
「イラッシャーイ! 何ニシマスカー?」
と鉄板の前でタコヤキを焼いている女の子が日本語で聞いてきたので、
ぱっと壁のお品書きを見たものの、
いろいろ書いてあって目が上滑りした音音。
「じゃ、普通の…スタンダードなのを…」
と無難に答えて、彼女の作るのを見ていたが、
まとめて丸くしようとしているものの、
ぐちゃぐちゃとなるばかりでなかなか丸くならない。
(これは…)
「ちょっと変わってくださいまし」
と言って、女の子を強引にどかすと、
ぐちゃぐちゃになっているひとつひとつをくるくると回して
丸い穴のなかに収めていく。
「OH! Miracle! Fantastic!」
と目を丸くしている女の子に、
「これが出来なくて,
よく焼き子を任されてますわねぇ?」
とため息交じりに呟きながら、
出来上がった分を経木のお皿に盛っていると
事務所から出てきたのは昨日ナドワと一緒にいた女の子だった。
一瞬何が起こっているのか分からなかったものの、
ちゃんとタコヤキが出来ているのを見て、
「コレ Can you make?」
と聞いてきた。
音音が竹串でひとつ突き刺して彼女の口にいれると、
メチャクチャ熱かったようで、
はふはふしながらなんとか食べきって一言、
「ヤミーっ!」
と叫んだ。
つづく