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「二楽亭へようこそ」その8 [小説]

第3章 その2

角もしっかり生えてる。
もう第3期だ…。
でもさすが、スーパーシングルタスク。
気配には敏感なはずの鬼なのに、
食事に集中してるので、
私の接近にもまるで気付いてないよ。
どっかのファストフード店のゴミを盗んできたのか、
ハンバーガーを一心不乱に漁ってるのが、
暗がりの中でかすかに確認できた。
しかし、なんで私の帰り道に居るかなぁ?
だいたい、いっしょにいるのは、
弾正府狼部(ろうぶ)の所属の護衛とはいえ、
ひ弱な三狼(さぶろう)だし。
本来狼部といえば、
弾正府十三部衆の中でも、最強と言われる武門。
だけど、三狼は、
身長165センチ、55キロと、
お世辞にも屈強とは言えないタイプで
あんまり頼りにならないし…。
だからといって
『鬼』をこのまま野放しにもしておけないし…。
そう思い悩む私に、三狼は、
「結繪ちゃん、ここは弾正府に連絡して、
プロにまかせようよ」
と有り得ない提案をしてくる。
「なっ!? なにバカなこといってんの?」
(あんただってプロでしょっ!!?)
っと心の中でつっこんでみるものの、
「でも、危ないし…」
と、どうやら戦う気ゼロらしい。
「わかった…。一応、本部に連絡しといて」
「うん」
返事しながらケータイメールを送信する三狼。
さっきもう元には戻れないって言ったけど、
『鬼』ってもともと人間なの。
日本人の7割が感染してると言われる鬼化ウィルス。
そのウィルスが発症すると鬼になる。
ウィルスの保菌者が、
異常に落ち込んだり、
過度のストレスを抱えたとき、
陰の気を持った妖異に取り付かれると発症すると言われている。
第1期は、ちょっとしたことでも過剰に反応したり、
キレ易くなったりする。
第2期は、感情の起伏がさらに激しくなり、、
犬歯が鋭くなったり、爪が硬く尖ったりした上に、
暴力的になる。
そして第3期は、角が生えたり、
体格が2周りほど大きくなるなど容貌変化のほか、
さらに粗暴になり、
理性的な会話はほぼ不能になる。
鬼化ウィルス自体は、
古細菌=アーキバクテリアの一種なので、
古来から存在していて、
人に定着しているものの、
よほどのことがないと発症しない。
これまでに
酒呑童子や茨城童子や紅葉など、
鬼化ウィルスが発現した例が数例、古文書に見えるが、
数えるほどでしかない。
つまり、殆ど発症するとはなかった。
ところが、この20年の間に
発症例が10数例報告され、極秘裏に処理されてる。
それだけでも、異常に多い。
最近は、突然キレて無差別殺人に走ったり、
自分の親や子供まで手にかける悲惨な事件が多発してる。
この1年についていえば、
発症数から類推して、
そうした事件を起こした犯人の1/3が
このウィルスの第1期の可能性が高い。
鬼退治も弾正府の仕事のひとつなので、
パトロールなども増えてすっごく忙しくなってる。
現に今だって、私が見つけちゃうぐらいだし…。
「--でも、ヤツが移動するようなら…」
視線を戻すと、鬼は立ち上がって歩きはじめる。
「あっ!? 動いたっ!」
もー、仕方ない、こうなったら、
私がやるしかないじゃん。
だって私は、
弾正尹(だんじょうのかみ)那須野結繪。
人間で言えば対妖摩用警視総監なんだから!
私は、愛刀小狐丸の鯉口を切りながら飛び出して、
「待ちなさい!」
と、鬼に声を投げつける。
46082458_m.jpg
その声に反応する鬼の反射速度は尋常じゃない。
鬼の長い手が、
とっさにしゃがんだ私の頭上をかすめる。
もう、危ないなぁ。
こんなになっても、もとは人間。
だから、最小限のダメージで動きを封じて、
対鬼用の施設に送らなきゃいけない。
それを私の力だけでなんとかしないと…
と人がシリアスに悩んでいると、
後ろから三狼が声を掛ける。
「結繪ちゃん、パンツ見えてるっ!」
って、
「え? キャ――っ」
バ、バカサブ、何言ってんの!?
そんなときは見ても見ないふり、
いいえ、見ないのが紳士ってもんでしょ??
ビリッ!!
気を取られている隙に、
鬼の爪がスカートを切り裂いた。
もうヤダ! パンツが見えちゃってる--。
恥ずかしくて、思わずその場にしゃがみ込むと、
鬼がよだれを垂らしながら、近づいてくる。

第3章 その3につづく。
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