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「二楽亭へようこそ」その10 [小説]

第3章 その4

翌朝、西御門学園へと向かう。
でも、
心に何かひっかかるような感じがして落ち着かない。
今日、本当なら横にいるハズの三狼が入院中で居ないせいだと
自分を納得させようとする。
でも、30分の登校時間がすごく長く感じた。

教室には向かわず、
学園の敷地内にある武道棟を兼ねる弾正府に出仕すると、
白ラン姿の鳩部(きゅうぶ)筆頭で生徒会長な宮本が待っていた。
「こんな朝早くからなんですか、Qちゃん先輩?」
「鳩太郎(きゅうたろう)です! 
それより、夕べの鬼の件ですが……」
q2.jpg
「最近ひっきりなしだよね」
「いくらなんでも多すぎると思いませんか?」
十三部衆のシンクタンク・鳩部のQちゃんが、
こんな持って回った言い方するときには必ず何かあるんだよね。
「…裏がある?」
「ご明察です。
今回捕らえた鬼から分離したウィルスは、
遺伝子に人工的にいじられたあとがありました。
妖異にとりつかれなくとも、鬼化します」
その言葉を聞いた途端、
胸がもやもやするような、
朝の嫌な感じが蘇る。
「………Q、なんで、遺伝子を調べた……」
「狼部の三狼殿が発症いたしました…」
「…そ、そんな…。三峯家といえば、
狼の神に祝福された家柄なのに…。
鬼化なんてありえないっ!!」
私の投げつけた言葉に
Q太郎が冷静に応答する。
「その通りです。
低俗霊など妖異に取り憑かれて発症する鬼化ウィルス。
万が一発症したとしても、
われわれ十三部の家の者なら
NK(ナチュラルキラー)細胞で
すべて押さえ込めるはずです。
なのに三狼殿は…」
「発症したっていうの!?
---それで、三狼はどうしたの?」
「夕べひと晩で第3期にまで進行したため、
これ以上、病状を進行させないために凍結処置に…」
「第3期っ!? ひと晩で!?
そんなことって…。
それに凍結…処置…って、
まだ実験中の技術じゃない! 
それを使ったの!?」
「一子さんの意向です」
「一子ねえの…」
「そうです--」
いつの間にか部屋の中に入って来ていた一子ねえが
話しに割り込んでくる。
「--ウィルスの進行を止めるには、
もうそれしかなかったの。
三狼は弾正様の幼馴染であると同時に
私の弟でもあります。
ですから最善と思う方法をとらせていただきました」

「--まだ話は途中なんですけどね…」
と一子ねえを睨(にら)みながら言うQ太郎。
そのケンの有る声を遮(さえぎ)るように、
「ふたりとも、そのくらいにしてよ」
と仲裁する声が後ろから聞こえる。
この声って…三狼…でも…そんな…。
鬼化の第3期って…
角が生えて、醜くなって…
そう思うと振り向くのが怖い--。

第3章 その5につづく。
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