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「二楽亭へようこそ」その27 酒虫 その1 [小説]

○酒虫 その1

「音音~! 明日のお昼、
中華料理が食べたい~。テーブルが回るヤツ~~!」
何故といわれても困るけど、
麻婆豆腐が食べたくなった私。
麻婆豆腐と言ってもフツーの麻婆豆腐じゃなくて、
花椒(かしょう=ホアジャオ)を使って
四川料理独特のピリカラ味になってる麻婆豆腐。
だからテーブルがまわる店じゃないとダメ。
「四川麻婆豆腐ガ食べたいの」
「はいはい、結繪ちゃんがそう言うなら、
中華街で良いお店を予約しますわ。
三狼も行きますわね?」
「…行く…」
「三狼、最近口数が少ないなぁ。
もうちょっと明るくしてれば、女の子にモテモテだよ。
元がかわいいんだから▽」
そう私が言うと、三狼は不満そうに、
「…かわいいとか言うな…」
とむっつりと答えた。
三狼ってばホントに可愛いのに、
ディアボロに感染して以来、どうも愛想がないなぁ。
「あら、三狼…。
あなた、いつから結繪ちゃんに、
そんな無礼な口をきくようになったのかしら…」
三狼に対してあからさまに対決姿勢で言い放つと、
音音が私の腕に自分の腕を絡ませてくる。
「じゃあ、結繪ちゃんは私がもらっちゃうことにいたしましょ~っと▽」
そう言いながら、手のひらで胸を触ってくる。
「うぁっ……腕はともかく、胸を触るな音音!
ふたりのケンカに私を巻き込むな!」
と音音を引きはがそうとしていると、
後ろから声を掛けられた。
「私たちも参ります♪」
声の主は、
五本の尻尾と狐の耳がかわいい葛葉ねえさまと、
四本尻尾に狐耳の静葉ねえさま。
このふたり、
私と音音の守護妖(あやかし)で、
御歳は600歳に近いらしい。
最近は、狐耳とか狐のしっぽとか生えていても、
コスプレが世間一般にも認知されているので、
『ちょっと不思議な人』ぐらいにしか思われないので、
いつも通りの巫女服姿で、どこにでも行けて便利。
「わ、わかりましたわ、
では、5人分で予約いたしますわね…」
音音の顔にタテ線が入って、あぶら汗をかいている。
ねえさま方は、かわいらしい姿に似合わず大食いで大酒のみなので、
鎌倉でも屈指のお金持ち、
化野本家の長女音音のおこずかいとはいえ、
多少は痛いらしい。

翌日―――。
中華街の派手な入り口、
善隣門の前で、
音音の家のリムジンから降りた立った私たちは、
音音が先頭に立って案内してくれる方へと歩いていく。
あちらこちらから、
ニンニクや生姜を炒める匂いや、
甜麺醤やザラメの香ばしくておいしそうな匂いが漂ってくる。
私がスポンサーだったら、
とりあえず歩く胃袋のみたいなねえさま方には、
美味しそうな肉まんを勧めて、
少しでも安く上げようとするところだけど、
さすが生まれながらの化野家のお嬢様、
覚悟は決まっているようで、
目的のお店にまっしぐらに進んでいく。
「こちらですわ」
音音がそう言って立ち止まったのは、
香港路からちょと入った、それなりの大きさのお店だった。
でも、そのお店に一歩入るなり、ちょっとした違和感を感じる。
お昼どきだけに、お店の1階にはたくさんお客さんが入ってたけど、
通された結構広い地下1階にはひとりもお客さんがいなかった。
違和感が更に増していく。
「ちょっと音音、
なにこのお店。いったい何がいるの?」

酒虫 その2につづく
kuzuha.JPG
イラストは葛葉ねえさま。
今回の本文とは特に関係ないです~。

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