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「二楽亭へようこそ」その28 酒虫 その2 [小説]

酒虫 その2

「先日、米カリフォルニア中部の
フレズノという街のチャイナタウンで『地下迷宮』が発見されて、
一騒動ございましたの。
その街は、昔から妖異の噂がたえない場所で、
街の地下には迷宮があり、
そこには妖(あやかし)が住むと言われておりました。
そこで本当に地下迷宮が見つかったので大騒ぎに……。
そして二月ほど前--
ここのお店の地下でも、
封印された地下室が発見されたんですの!」
「じゃあ、この地下にも地下迷宮が?」 
「はい…」
「じゃあ、妖も…」
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とたたみかけるようにして聞くと、
「いたのですわっ!!」
と、間髪入れずに答える音音。
「きゃ―――!! こわいです~」
出来るだけおどろおどろしい演出で
私たちを驚かそうとする音音の努力に、
ねえさま方ふたりはキチンとお着き合いして怖がってみせる。
そりゃ、このあとのご飯のスポンサーだからね、音音は。
「で、その妖って、何なのいったい?」
「酒虫ですわ」
「なにそれ?」
「芥川龍之介の小説にもなってますけど、
もとは中国の怪異を記載した本
『聊齋志異(りょうさいしい)』に載っていた伝承ですわ。
水を入れた甕(かめ)の中に酒虫を入れておくと
そのお水が良い酒になるそうなのですが、
これに取り憑かれると大酒飲みになってしまうとか。
昔の大富豪・劉大成がこの酒虫に取り憑かれて、
大酒飲みになってしまい、
それを治すために、
酒虫を体内から追い出すというお話ですわ」
「追い出すって、どうやって?」
「実に簡単なのですわ。
しばらく宿主に酒を断たせて、
そのそばに酒のツボを置けば
酒虫がお酒を求めて、勝手に出て来るのですわ」
「で、ここにその酒虫に憑かれた人がいると?」
「はい」
「でも、これから断酒させるとなると、
随分時間がかかるんじゃ…」
「こんなこともあろうかと、
こちらが一昨日から断酒していただいてるこちらのご主人ですわ」
音音がそう言うと、
奥の部屋の扉を開ける。
そこには、ぐったりした表情のメタボリックなオッサンが
椅子に縛り付けられていた。

酒虫 その3につづく
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「二楽亭へようこそ」その29 酒虫 その3 [小説]

「酒~、酒飲ませてくれ~」
うめくオッサンを無視して音音が続ける。
「夕べから仕込んでおいたので、そろそろですわ」
「で、音音これで、いったいいくら貰うの?」
「うはっ! な…何をおっしゃいますの! 
わたくし、こう見えましても名門化野(あだしの)家の跡取りですわ。
お金なんて1円もいただきませんわ」
「ふーん…」
准公務員扱いの弾正府としては、
妖異を退治したからと言って、対価を貰うことはない。
でもまあ、ここでのご飯代ぐらいないら大目に見ようかな。
「で…では、さっそくかかりますわ…」
ちょっとあせりながら、
音音はバッグから取り出したシャンパンの栓を勢いよく飛ばした。
ポン、シュワー…! 
という音とともに泡があふれ出して床を濡らすのを見た
静葉ねえさまと葛葉ねえさまのふたりは、
「きゃー!
ドンペリをこぼしちゃダメです~」
「もったいないですわ~」
と口々に叫ぶと、
どこからかmy杯を取り出して、
流れる出るお酒を受けて飲み始める。
「う~~ん、やっぱりドンペリ、おいしいですわ~」
「甘露なのです~」
と嬉しそうなふたりの声を聞いて我慢できなくなったのか、
「ぐええぇぇ! ぐぉおおっ!」
とオッサンが妙な呻き方をしはじめている。
あ、もしかしてこれ、酒虫が出て来る前触れかな?
身構える一同が見守る中、
オッサンの胃の辺りがモゾモゾして、
そのモゾモゾがノドのアタリまで来たと思ったら
急に静かになった。
身構えて5分、音音と顔を合わせると、
「三狼、見てきてっ!」
と三狼の背中を後ろから押す。
これぜったいトラップだもん。
三狼がおっさんの口をのぞき込んだ途端、
「ぐはぁああっ!」
というオッサンの呻きとイッショに、
口から芋虫のようなモノがモゾモゾと出てくる。
うわー、なんのホラー映画??
気持ち悪すぎて思わず目をそらすと、
ねえさま方もがっくりと膝を着いて口を押さえていた。
音音だけは、用意していたお酒を少し入れたビンの口を開け、
タイミングを計っている。
いい加減三狼に絡みついたところで、酒虫にビンを向けると、
そいつは自分からそのビンに入っていく。
フタを閉めると、モザイクなしには見れない物体が
ビンの中でウニョウニョしている……。
音音酒虫.jpg
「That all、一丁あがりですわ」
音音1.jpg
酒虫 その4につづく
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「二楽亭へようこそ」その30 酒虫 その4 [小説]

ちょっとあの酒虫の映像を見た後では、
さすがに誰も食指が動かなくて、
その日はすごすごとお店を後にした。
音音だけはお腹が空いたからと言って、そのまま店に残った。
どんだけ健啖家なんだ…。

今回の一件は、
地下室(地下迷宮というのは音音の演出…)が発見されて以来、
急に大酒飲みになったお店の主人を心配した家人が、
中華街にいる道教の導師に相談した結果、
弾正府に回ってきたらしい。
そして1週間後、ふたたびあのお店。

もう14時を回るというのに、
件(くだん)のお店の前には長蛇の列ができていた。
あの酒虫をオッサンから取って以来、なぜかお店は大人気店になり、
今では半年先まで予約が入っているという。
「この大繁盛は化野様のおかげです」
店先に現れた店主は、そう言って下にも置かないもてなしぶり。
1010.JPG
2階の貴賓席に通されると、
次々にお料理とお酒が運ばれてくる。
お料理はすごくおいしくて、
例の麻婆豆腐のほか、
おいしい中華料理を
回るテーブルで思い切り堪能して大満足な私。
「こちらは当店で一番のお酒でございます」
そう言って出されたお酒に、
「こんなに美味しい老酒は初めてなのです~」
と葛葉ねえさまも静葉ねさまも舌鼓を打った。
「そうでございましょう?
あの日、化野様が教えてくださったとおり、
アレを名水につけておくと、
今まで味わったこともないような名酒が醸(かも)されて、
今やそれが評判に評判を呼んで、この通り大繁盛でございます」
「文献にあった通りなのですわ」
と音音は鼻高々。
「なに文献って?」
「え? 前にもお話した
聊斎志異の『酒虫』ですけど…」
それって、ちょっとイヤな予感が…。
そんな私の不安をよそに、
「マスター、アレ持っていらして」
と言って何かを持ってこさせる音音。
そしてカートに乗せられて出てきた大きなガラスビン、
その中にはアノ酒虫がうねうねと……。
「この酒虫、この方から
出てらっしゃったもの…」
と店主を指さして言うと、
ねえさまふたりはトイレに向かって駈けだした。
「?」
「お店ではキモかわいくて美味しいって評判なのに、
おふたりともどうなさったのかしら?」
と首をひねっている音音と店主に、
「もしかしてそのお酒、料理にも入ってる?」
っと半分腰を浮かせて聞くと、
「え? うん。もちろんですわ」
ときょとんとした表情で答える音音。
確かに味はいい。
でもあのビジュアルはどうしてもダメ~~!
涼しい顔をして食べ続けている三狼を横目に、
ねえさまたちの後を追いかけた私だった。

酒虫 おわり 第3話につづく
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「二楽亭へようこそ」その31 第3話「瑞葉がきた日」その1 [小説]

その1

むかしむかし、那須野というところに、
瘴気(しょうき)で近づくものを殺してしまう殺生石という石がありました。
その石は僧・玄翁により砕かれ…。
という話は前にもしたと思うけど、
玄翁和尚に砕かれた殺生石の欠片がどうなったというと……。

殺生石の飛び散ったパーツは、
全国各地に散らばったらしいんだけど、その数は定かじゃない。
その中でも、割と大きかったふたつの石が、
葛葉と静葉という狐の子に生まれ変わっていた。
葛葉と静葉は、それぞれ人に育てられ、
母・玉藻の前の生涯を知っても人を恨まず、
人との共存を願った。
一方、いろんな場面で対立していたあやかしと人は、
玉藻の前の事件があって、
対立に終止符を打とうと、
朝廷の命を受けた陰陽寮と神狐を中心とした有力なあやかしが手を組み、
紳士協定を結んだ。
そしてその協定を守るための組織・弾正府をつくり、
そのときあやかし側からの人事に抜擢されたのが、
葛葉、静葉、あの狐のあやかしだった。
葛葉と静葉の姉妹は、
それぞれ子狐丸、狐ケ崎という名前の刀に封じられ、
代々の弾正府長官・弾正尹(かみ)と
次官弾正忠(だんじょうのちゅう)の守り神となった。

で、現在。
弾正尹(だんじょうのかみ)の私、那須野結繪(なすのゆえ)と
弾正忠・化野音音(だんじょうのちゅう・あだしのねね)は
結構な大ピンチに陥っていた。
結繪ピンチ.jpg
というのも、今、私たちの目の前にいるのは、
どう見ても落ち武者の群れってやつで…。
そいつらが、手に手に槍とか刀とかを持って、
隊列を組んでじりじりとこちらに近づいてくる…。
私は愛刀・子狐丸でそいつらをけん制しながら、
傍(かたわ)らにいる音音に尋ねてみる。
「ちょっと音音(ねね)っ! 
いつまで我慢すればいいのっ!?」
「結繪ちゃん、もうちょっとだけ我慢してくださいませ」
そりゃがんばれるだけがんばるけど、
早くしてくれないと、
私たち、あちこち服が破れてかなりセクシーなことに
なっちゃってるんですけど…。

その32につづく
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