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「二楽亭へようこそ」その24 [小説]

第6章 その4

「ニコライ殿、おしゃべりはその辺で…」
そう言いながら、
ヒュースケンを抱えるようにして結界牢から出て来たのは、
茶筅髷を結った侍姿の外国人だった。
「葛葉どの、お久しゅうござる」
「貴方は…三浦按針――貴方まで出張っているなんて…。
…そこまでディアボロの秘密は重大なのですか…」
そう言った刹那、ふたりを追いかけるようにして、
よろよろと出てきたのは二狼にいさま!
無事だった!
無事でいてくれた!!
「き…貴様の相手は俺だ! こっちを向け!」
六尺の斬馬刀を引きずり、頭と片腕から血を流し、
立っているのもやっとという痛々しい二狼にいさまがそこにいた。
「にいさま、ここは私がっ!」
言いさま、小狐丸の鯉口を切り、構える。
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「結繪ちゃん! ダメです、
貴女がどうこうできる相手ではないのです!」
葛葉ねえさまの言うことはわかる。
でも今ここで私が引いたら…。
「拙者とて、婦女子を斬るのは気が乗らん。
用件もすんだことだし、今日の所はこれにて御免!」
そう言うと、そこから侵入してきたという穴へ、
ニコライと共に消えていく。
後を追おうとする石田を葛葉ねえさまが引き留める。
「それよりも、けが人の手当を急ぐのです」
そう言うあいだに、穴の中で爆発があり、
岩や土砂が崩落する音が響き渡る。
その音で、はっと我に返った私は、
慌てて二狼にいさまのそばに駆け寄ろうとするが、
その間に二狼にいさまが床へと崩れおちる。
「にいさまっ! しっかりしてください!!」
「二狼さん!」
「…葛葉様、
やはり、三狼の方が資質は上のようです。
結繪様、これを三狼に――」

そう言うと六尺斬馬刀を私に渡し、
目を瞑(つぶ)り、苦しそうに喘(あえ)いだ。
葛葉ねえさまの足下が光り、
方陣が浮きだし、癒しの呪文が詠唱される。
でも、二狼にいさまの傷はなかなかふさがらない。
しばらくじりじりとした時間がながれ――、
やっと傷が少しふさがって来た! 
そう思った瞬間、
二狼にいさまの身体は筋肉が盛り上がって…。
これってにいさまも!?
「うそ……」
「ディアボロ!? 
按針の刀にウィルスを塗布(とふ)していたに違いありません。
こ、これでは……」
葛葉ねえさまが呻くように呟いた……。
「そ、そんな、二狼にいさま! 
イヤです! にいさまっ!!」
私の悲鳴が地下室にむなしく吸い込まれる…。

第7章につづく
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