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「二楽亭へようこそ」その21 [小説]

第六章 その1

ふたりが沈黙した一瞬の静けさのあと、
その静寂をやぶるかのように、
武道棟全体に警報音が鳴り響く。
『全館に警報! 敵襲です。
艮(うしとら)・大平山(おおひらやま)方面よりコードネーム出雲進行中。
従四位相当、ラフカディオ・ハーン。日本名小泉八雲。
蜂部(ほうぶ)・虎部は小隊単位でただちに出撃してください。
非戦闘員は至急……』
出撃を促すアナウンスが急を告げる。
小泉八雲? 
今度はさすがに知ってる。
日本に帰化して『耳なし芳一』とか書いた人だ。
教科書で見た写真は割りと優しそうな感じの人だったけど…
なんて考えてたら、
二楽亭の2階から飛び出した葛葉ねえさまが、
こちらに向かって文字通り飛んできた。
「結繪さん、大物の来襲なのです! 
飛びますから、掴まるのです!」
「は、はい! あ、でもその前に服を…」
さすがにこの人魚のコスプレで出撃するのは恥ずかしすぎるよ~っ!
結繪葛葉人魚2.jpg
「あ、そうですね」
そう言って葛葉ねえさまは
さっきと同じように私を扇で扇ぐと
一瞬ひかりに包まれて、元の制服姿にもどった。
「では参ります」
「三狼、遅れないでっ!」
言いながら葛葉ねえさまの腕を掴む。
するとまるで体重などないかのように、
ふわりと空中に浮かび上がる。
音音と静葉様も合流してきた。
「結繪さん、今日は白と黄色のシマシマですのね」
「えっ!?」
後ろにいる静葉様にそう言われて、
パンツが見えちゃってることに気がついた私。
慌ててスカートを押さえても、
片手だとバタバタが上手く押さえられない~~~。
はっ、として下を向くと、飛んでいる私たちの下を、
木のてっぺんを飛ぶようにしてついてくる三狼が、
鼻血をハンカチで押さえている。
「!?///////わ、バカ、三狼上見るなっ!」
「あらあらww、三狼さん鼻血ですか?」
静葉ねえさまが笑いをこらえながら茶化す。
「結繪ちゃん、暴れちゃダメなのです~!」 
葛葉ねえさまがバランスを崩す中、
途中で着けたインカムから情報が入ってくる。
『蜂部(ほうぶ)前衛が出雲と接触します』
「こちらも間もなく接触します。
蜂部・虎部は一撃して市営テニスコートまで後退、
鹿部(ろくぶ)と合流し防衛線を構築してください」
音音は、そう指示を出した後、
こちらを向いて、インカム越しに戦略予想を言ってくる。
『結繪ちゃん、定石なら裏鬼門・未申(ひるじさる)から、
別働隊が侵入してくる可能性が大きいです』
「さすが音音!」
「軍略は音音さんの好きにしてもらっていいと思うのです」
音音は、こちらに目配せしてうなずくと、
『出雲は”囮”の可能性が高いです。
狼部は現状維持でヒュースケンを護衛。
鷲部・牛部は国大付属小学校陸上トラックに展開。
狸部・兎部は第二運動場にて迎撃用法陣を組んでください』
と指示を出していく。
その最中、森の中から殷々(いんいん)と声が響いてくる。

第6章 その2につづく
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