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「二楽亭へようこそ!」 ハワイ細腕繫盛記 その7 [小説]

「…何か訳ありのようですわね…」
「……はい。
実は今流行っているシェイブアイスは、
安くて見栄えはするのですが、
あまり美味しいとはいえません…。
それはあの店を運営する火の神ペレを信奉する一族が
日本から来た雪ンバというあやかしをアドバイザーに迎えてから
始まったことなのです」
「雪ンバっ! なんてことっ!!」
「ご存知なのですか?」
「私こう見えてましても、
日本ではあやかし総取締で知られる弾正台の
副長官・弾正忠(だんじょうのちゅう)を拝命する者
――あやかしで知らないものはございませんわ!」
181201i1.jpg
と大見得を切ったものの、
以前鎌倉で、雪ンバ一党とのかき氷バトルで勝利して、
そのあと行方不明になっていた雪ンバ達がまさかハワイにいたとは
正直驚きを禁じ得ない音音だった。
「ちょっと待っていただけるかしら…」
とふたりに告げると護衛のオオゼキに声をかけた。
「なんでしょう?」
と聞いてきたオオゼキに周囲の警戒を命じてから、
「雪ンバの監視者がいるかもしれないので、
その連中を補足しても、
私たちが気付いた事を気取られないようにして。
できればアジトを突き止めて欲しいけど、
むりはしないようにして頂戴」
注意を促してからナドワたち二人に向き直った。
「失礼、雪ンバは日の本では指名手配犯なのです。
私の護衛は優秀ですから、逮捕に向けてキチンと手をうちますから、
もう大丈夫ですわ。
お話を続けていただいて結構ですわよ」
そう言われてナドワが話を続ける。
「もともとはリノたちがシェイブアイスを商っていて
それなりに売れていたのですよ。
でも雪ンバがペレの一族にアドバイスした結果、
彼女たちの安価で派手なシェイブアイスはバカ売れするようになって、
私たちのお客さんも離れていきました。
でも向こうの氷の質は荒く、シロップも合成甘味料の味がするから、
きっと私たちのお店に帰って来てくれると思っていたのですが、
もはや経営的に耐えられずタコヤキに賭けようと…」
「インスタ映えするから売れる…
それであんなひどい味でしたのね…」
そんな話をしながら、
味見にと出してもらったリノのかき氷を一口食べて驚いた。
音音たちた今売っているシェイブアイスよりもふわふわで、
日本の最上位商品と同等かそれ位以上のシロモノだった。
「これのお値段は?」
と聞くと、
「4ドルです」
という答え。
鎌倉のお店で同じものを出そうとすれば、
原価で8~9ドルはかかる。
リノから、
シロップはそのあたりに生えているリリコイだの、
規格外の格安パインだのから作るので、
原価は飲食のセオリー通りの3割で1.2ドルだと聞いて、
さすがの音音も驚いた。
(――味は極上、値段は安い。とはいえ、
こちらの地味なシェイブアイスでは食通はともかく、
一般大衆にはアピールできませんわね…。
そうですわっ!)
「シロップ漬けにしたエディブルフラワーを乗せれば見栄えがしますわ…」
「――でも花ではあまり甘くならないし、
甘くなれば色合いが悪くなって…」
もちろん普通の方法ではリノの言う通りだろう。
「我に秘策あり、ですわ!」
自信に満ち溢れた顔で言われると、
きっと成功するに違いないとナドワとリノは思った。

つづく
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「二楽亭へようこそ!」 ハワイ細腕繫盛記 その8 [小説]

さっそく準備にかかった音音は、
エディブルフラワーを買い付け、
甘味シロップに漬け込むと
先日の戦いでクラーク博士から手に入れた
細胞を壊さずに冷凍する技術=スーパーセルライブ製法で氷漬けにした。
ふわふわのかき氷とエディブルフラワーのコラボは
インスタ映えする商品に仕上がっていた。
「これは売れそうですっ!」
と喜ぶナドワたちに、
「写真を撮ってSNSで拡散してくださませ」
と口コミでの宣伝戦略に出る。
その他、
リノを先生にして、
河童ガードのクボタにフラを覚えさせたものの、
ちょっと地味な仕上がりになってしまい、
(リノは、不思議と荘厳な感じのするクボタのダンスは凄い、
と絶賛していたが)
急遽別のフラの先生に教授してもらったファイヤーダンスで、
炎出しまくりで派手な演出に加え、
撮影中に丁度噴火した(幸い人的物的被害はなし)キラウエアをバックにした
ハワイのローカルCMを、
早朝深夜の安い時間帯に大量に流し、
だんだんと評判になっていった。
結果、
新装開店したリノたちの店
「デンジャラス! ロシアン・カラマリボールマニア」は、
現地人や観光客が押し寄せ大繁盛し、
提携した「シェイブアイスマニア」の行列もさらに長くなった。
その為の雪使いをリノたちの一族からも出してもらう事で
雪ん子たちの仕事量も軽減されて、
双方2号店を合同で出そうという話まで進められていた。
そして思惑通り、
雪ンバたちの店には閑古鳥が鳴き、
収入の途絶えた雪ンバ一味が
そろそろしびれを切らして動き始める頃合いだった。

雪ンバ、
早い話が歳を経た雪女のことだが、
以前音音との<かき氷対決>に負けた腹いせにいろいろ悪事を働き、
幽世(かくりよ)の監獄に永久幽閉となっていたが、
隙をついて脱獄し、現世(うすしよ)に舞い戻っていた。
そして、
音音の経営する高級割烹「極氷」に大食い二人を乱入させるという悪事を働いた為、
怒った音音は、
ハワイ高級リゾート宿泊券を懸賞品として付けて指名手配したものの見つからなかった。
その時の懸賞品の旅行チケットを換金するのも手数料が勿体ないので
<シェイブアイスアマニア>出店視察も兼ねて
やって来たハワイ。
そこで食べたマズいシェイブアイスが、
まさか雪ンバがコンサルティングしたものだとは、
お釈迦さまでも知らぬ仏の……つくづく腐れ縁だと思う。
とはいえ、
ここで雪ンバを取り逃がしてはまた面倒なことになるので、
化野家私設警備部から出せる人員を呼び寄せようとした音音だったが、
あいにく大口のイベント警備の仕事が入っており、
今、手元にいるキザクラ、オオゼキ、クボタの他5名以外は出せないと
やんわりと断られてしまった。
「営業優先で結構ですわっ!」
と強がったものの、
大見得を切った手前、
ナドワたちに頼むのもバツが悪い上に勝手が分からない。
(現地の警備会社では、あやかしは手に余りますし…)
となやましく思っているところに、
スマホからメールの着信音が聞こえてきた。
開けてみれば、
警備会社を立ち上げたという
ボスネセンスキー鬼兵団の頭目タチアナ、
元はロシアの皇女大佐からの挨拶メールだった。
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(ああ! うってつけの人材がおりましたわ)
音音はニヤリとしたかと思うと、
自分のスカイプアドレスを記載して、
ご祝儀代わりに仕事をさしあげるから、
あなたもスカイプにアドレスを作って上記のアドレスに電話しなさい、
と書いて返信した。
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