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「二楽亭へようこそ」その17 [小説]

第4章 その6

そんな会話の横で、
三狼がヒュースケンに魔封じの護符を貼り付け、
駆けつけてきた弾正府の特別警備員に引き渡すのを、
静葉ねえさまが黙ってみている。
「ご指示通り西御門内の警戒レベルを特1まで上げました」
「結構です。彼の血から、
ワクチンが出来る可能性が高いですわ。
絶対に逃がさないようにね」
音音が警備員にてきぱきと指示を出している。
そこに、生徒会長を兼任する
鳩部司(きゅうぶのつかさ)宮本鳩太郎が現れた。
「敵の侵入を許したとのこと、
誠に申し訳ありません。早急に原因を究明すべく………」
と詫びを入れる鳩太郎に、
「あ、Qちゃん!」
と鳩太郎が嫌がる呼び方で答える葛葉ねえさま。
「鳩太郎です…葛葉さま……」
飽くまで冷静を装う鳩太郎だけど、
一瞬、額に血管で怒りマークを浮かばせたのを、
私は見逃さなかった。
そんな鳩太郎の気持ちを知ってか知らずか
葛葉ねえさまが食べ物の催促を始めた。
「まあ、そんな細かいことは気にしないのです。
それよりも、鬼どもを退治たのですよ。
力を使ったので、
お腹がすいたのです。
大山阿夫利門前の大出豆腐店から、
あぶらあげを取り寄せてくださるとか…」
それを聞いてl静葉ねえさまが、耳をぴくぴくさせてる。
静葉おねだり.jpg
普段は物腰やわらかで、
眉目秀麗、沈着冷静な静葉ねえさまだけど、
ああ見えて、好物のあぶらあげとお酒のことになると、
目の色が変わるんだよね。
鳩太郎はにっこり微笑みながら、
「で、では直ちに早馬を--」
と言うと伝令にバイク便の指示を出す。
そして鳩太郎は、
にっこり笑ったその笑顔のまま、私の方に振り向くと、
「結繪さま、お店の指定は受けないでくださいと、あれほど――」
と小声で窘(たしな)めてくる。
「えっ!? だって、それ音音が…」
「まぁまぁまぁ、
ヒュースケンなんていう大物を捕まえたのですから、
やんごとない筋もきっとお喜びですよ。
良いではないですか?」
と音音が割って入る。
「音音様がそうおっしゃるなら…」
「では、会長は宴席の用意を……」
Qちゃんがあっと言う間に丸めこまれた。
私はダメで音音ならいいってどういうことっ!
「音音、ひどいよぉっ。
コレじゃ私が悪いみたいじゃない……」
振り向いた音音が、私の耳元で囁いた。
「ごめんなさいませ。
そのかわり、
このあとの宴席でのお席、
二狼にいさまのお隣にしてさしあげますから、ね? 
よろしくて?」
//////真っ赤//////。
二狼にいさまは、三狼のお兄さまで、
弾正府最強といわれる狼部に所属している。
斬馬刀という、
通常よりも長い刀を得物とする
狼部の長たる司(つかさ)をまかされるほどの腕前。
幼いころから、
ずっと修行に出されていた二狼にいさまと初めて会ったのは、
私が小6で、二狼にいさまが中学一年生のとき。
弟の三狼とはひとつしか違わないのに、
もうすっかり大人びて見えた。
二狼にいさまは、私の憧れの――初恋の人だったりする。

第5章につづく
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