二楽亭へようこそ! 「ふたりの母」その12 [小説]
雪親子が幽冥世(かくりよ)に帰ってからも、
『氷極』は業態を変えずに営業を続けた。
人の噂も七十五日とはよく言ったもので、
雪が幽冥世から派遣してくれた新しい雪女たちのきめ細かい雪質により、
クオリティを維持できたため、
店は再び活況を取り戻してきていた。
「幽冥世支店の営業も好調で、
代金代わりにもらうレアなグッズや貴重な魔法素材が随分集まってるみたいでやす」
「政令指定都市に支店を出してもいい頃合いかもしれませんわね。
それから魔法素材は、化野ラボに送って解析させてちょうだい」
すべての計画が図に当たり、
もう誰にも手がつけられないほど絶好調な音音の元に
駆け込んできたオオゼキから凶報がもたらされた。
「葛葉姐さんと静葉姐さんが店にいらっしゃって、
メニューの端から端まで持ってこいって言って、
まるで小田原大海嘯(おだわらだいかいしょう)みたいな
ものすごい勢いで飲み食いしてやすっ!」
「な…なにゆえここが…っ!?
し…仕方ありませんわ…、
非常事態を宣言、交戦規定アルファ発動!
とにかく中におモチを仕込んだお稲荷さんと
巨大な鶏モモ肉塊入りカレーを
大量にお出ししなさい!」
音音の命令一下、
リーズナブルでお腹にたまるモノで攻勢をかけるも、
ふたりはそれらを、
まるで飲み物のようにほぼ丸呑みにし、
カニやウニやお刺身など原価の高いものを注文しては容赦なく平らげていく。
「姐さん、だめだっ…。
あのおふたり、こちらの出す重食材をぺろりと平らげた上、
普段食べられない高級食材を集中して食べてやす…」
「な、なぜこんなことに…。
この事態を避けるために
この<氷極>には、<道楽>という名前も泣く泣くつけなかったのに…っ!」
仕方なく偶然を装ってふたりのもとに音音が出向くと、
何も知らない静葉が声をかけてきた。
「あ、音音?
ここでお会いするなんて奇遇ですね。
お食事ですか?」
「いえ、その…」
音音が逡巡すると同時に葛葉に、
「今朝ですね、
雪ンバって人から文(ふみ)をいただいてですね、
<氷極>ってお店でお昼ごちそうするから、
食べに行ってくれって言うんです~。
オーナーに話しておくから
好きなものを好きなだけ食べていいって言われたのです~!」
と、破顔して言われると、
音音はもう何も言うことが出来なかった。
「それは良かったですわね~、
ではまた夜に二楽亭でお会いしましょう、
ほほほ…」
と不自然な微笑みを残してその場を立ち去った。
(ゆ…雪ンバ~~!! 許しませんわっ!!
これで勝ったと思ったら大間違いですわ!
今回の被害は全部雪ンバに請求してさしあげますわ!)
執務室に戻った音音は、
「草の根分けても雪ンバを探し出しなさい!
見つけ出した者には、
カハラホテルステイ・ファーストクラスで行くハワイ五泊七日の旅を
ペアでご招待しますわ!」
と並々ならぬ決意をみせたが、
雪ンバの行方は杳としてしれなかった。
そんな中、
不幸中の幸いだったのが<氷極>だった。
音音の店だとバレていなかったため、
そのあと静葉葛葉の来訪はなく、
被害は最小限にとどまり、
鎌倉の名店のひとつとして定着することが出来たのだった。
おわり
『氷極』は業態を変えずに営業を続けた。
人の噂も七十五日とはよく言ったもので、
雪が幽冥世から派遣してくれた新しい雪女たちのきめ細かい雪質により、
クオリティを維持できたため、
店は再び活況を取り戻してきていた。
「幽冥世支店の営業も好調で、
代金代わりにもらうレアなグッズや貴重な魔法素材が随分集まってるみたいでやす」
「政令指定都市に支店を出してもいい頃合いかもしれませんわね。
それから魔法素材は、化野ラボに送って解析させてちょうだい」
すべての計画が図に当たり、
もう誰にも手がつけられないほど絶好調な音音の元に
駆け込んできたオオゼキから凶報がもたらされた。
「葛葉姐さんと静葉姐さんが店にいらっしゃって、
メニューの端から端まで持ってこいって言って、
まるで小田原大海嘯(おだわらだいかいしょう)みたいな
ものすごい勢いで飲み食いしてやすっ!」
「な…なにゆえここが…っ!?
し…仕方ありませんわ…、
非常事態を宣言、交戦規定アルファ発動!
とにかく中におモチを仕込んだお稲荷さんと
巨大な鶏モモ肉塊入りカレーを
大量にお出ししなさい!」
音音の命令一下、
リーズナブルでお腹にたまるモノで攻勢をかけるも、
ふたりはそれらを、
まるで飲み物のようにほぼ丸呑みにし、
カニやウニやお刺身など原価の高いものを注文しては容赦なく平らげていく。
「姐さん、だめだっ…。
あのおふたり、こちらの出す重食材をぺろりと平らげた上、
普段食べられない高級食材を集中して食べてやす…」
「な、なぜこんなことに…。
この事態を避けるために
この<氷極>には、<道楽>という名前も泣く泣くつけなかったのに…っ!」
仕方なく偶然を装ってふたりのもとに音音が出向くと、
何も知らない静葉が声をかけてきた。
「あ、音音?
ここでお会いするなんて奇遇ですね。
お食事ですか?」
「いえ、その…」
音音が逡巡すると同時に葛葉に、
「今朝ですね、
雪ンバって人から文(ふみ)をいただいてですね、
<氷極>ってお店でお昼ごちそうするから、
食べに行ってくれって言うんです~。
オーナーに話しておくから
好きなものを好きなだけ食べていいって言われたのです~!」
と、破顔して言われると、
音音はもう何も言うことが出来なかった。
「それは良かったですわね~、
ではまた夜に二楽亭でお会いしましょう、
ほほほ…」
と不自然な微笑みを残してその場を立ち去った。
(ゆ…雪ンバ~~!! 許しませんわっ!!
これで勝ったと思ったら大間違いですわ!
今回の被害は全部雪ンバに請求してさしあげますわ!)
執務室に戻った音音は、
「草の根分けても雪ンバを探し出しなさい!
見つけ出した者には、
カハラホテルステイ・ファーストクラスで行くハワイ五泊七日の旅を
ペアでご招待しますわ!」
と並々ならぬ決意をみせたが、
雪ンバの行方は杳としてしれなかった。
そんな中、
不幸中の幸いだったのが<氷極>だった。
音音の店だとバレていなかったため、
そのあと静葉葛葉の来訪はなく、
被害は最小限にとどまり、
鎌倉の名店のひとつとして定着することが出来たのだった。
おわり