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「二楽亭へようこそ!」 ハワイ細腕繫盛記 その9 [小説]

ダニエル・K・イノウエ国際空港と滑走路を共有する、
リベラルアメリカ軍のヒッカム空軍基地の格納庫前で、
屈強な男たちを60人程従えた
軍服姿のツインテール少女が立っていた。
13~15歳位にしか見えないその少女――
帝政時代のロシア軍大佐の襟章を付けた――の前にリムジンで乗り付けた音音が降り立った。
「――遅かったですわねタチアナさん」
音音が、
東京にいたタチアナに出したメールに指示した、
スカイプでの通話から20時間後というのは、
飛行機のチャーター代をケチって、
自衛隊輸送機c2に乗せて貰った結果であり、
ほぼ音音の責任と言える。
しかも、
巡航速度マッハ0.8という、
ボーイング787ドリームライナーよりマッハ0.05も巡航速度の劣る
自衛隊のC2で来たことを思えば上出来だろう。
「なっ…!」
ふだんならすかさず言い返すタチアナだったが、
慣れない飛行機の上に、
かたい輸送機のベンチシートに揺られてきたあとだけに、
二の句が継げずに口をパクパクさせていると、
「いや姐さん、
準備時間と空港までの移動時間を考えたら
メチャクチャ早いと思いやすぜ?」
とキザクラが助け船を出した。
「そんなことわかってますわ。
あいさつ代わりの冗談を真に受けらても困りますわ」
音音は本当かどうか怪しい返答をしながら、
タチアナの方に向き直ると仕事の確認を始めた。
「概要はデータで送信した通り、
雪ンバとその一党の掃討がメインですわ。
この連中には何をしてもかまいませんが、
現地の勢力には注意して。
できるだけ事を構えたくないので、
どうしようもない場合以外は傷付けることも禁じます」
「了解りょうかい。
VK=ヴォスネセンスキー警備の初仕事だから、
しっかり働かせてもらうわ」
「それにしても大人数ですわね?」
「あ、それは私たち寒いとこは大丈夫なんだけど、
暑いとこで不測の事態が起こっても大丈夫なように
乗せられるだけ乗せてきたの」
そう言われればロシア人の部隊だけに納得した音音。
「明日から新規店舗
<ロシアンカラマリボールマニア>の開店キャンペーンを始めますわ。
細かいことはこのクボタにお聞きになって、
周囲の警戒に遺漏ないようにお願いしますわ」
そうタチアナに告げて立ち去ろうとすると、
タチアナがさっと音音の前に立ちふさがった。
「ちょっと待って! 
そのお店の商品はどんな食べ物なの?」
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「ああ、確かにどんなものなのか
知っておいた方がいいですわね」
音音が手を挙げると、
リムジンの後ろに止まっていたバンの後部がトランスフォームすると、
オープンキッチンが現れて、
すでに河童ガードの一人がカラマリボールの生地を
鉄板に流し込み始めるところだった。
「このあとこのバンを塗装に回そうと思って帯同していて正解でしたわ」
「これってタコヤキ…」
「いいえ、タコではなくイカですわ。
お好み焼きを丸めて貰ったと思えば味の想像はつきますでしょ?」
「ああ、なるほど、
西欧人になじみのないタコよりはイカということね…」
「でもね、それだけじゃ、
面白みに欠けるでしょう?
ですから、10個のうち1つだけ、
大人用にはホットチリソースが仕込んでありますの。
もちろんお子様には刺激が強いので、
いちごジャムを入れてありますわ」
そんな会話をする内にも、
カラマリボールはどんどん形を丸くしており、
いい匂いをあたりにまき散らしていた。

つづく
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