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「二楽亭へようこそ」その18 [小説]

第5章 その1

西御門学園の武道棟は、結界のせいで、
普通の人には四階建てにしか見えないけど、
実は鎌倉府条例違反の地上十四階建て。
その屋上には、
大小ふたつの辰狐(しんこ)池と貴狐(きこ)池を配した
純和風の空中庭園がある。
葛葉ねえさまと静葉ねえさまの妖力で、
季節は常に秋に固定されていて、
紅葉や曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の鮮やかな赤が
いつも綺麗で風情があるなぁと思う。
そして、池の畔に佇む寝殿造りっぽい建物は、
私と音音、葛葉ねえさまと静葉ねえさまが住む二楽亭。
その二階の大部屋には、
弾正府の非番の人たちが集まって、今や宴もたけなわ。
「清酒大吟醸九尾狐」
「こちらは韓国のお酒、九尾狐(クミホ)マッコリ」
「中国酒の九尾狐香雪酒▽ どれも美味しそうですわ♪」
三種類のお酒を目の前に置かれ、
満足そうな葛葉ねえさまと静葉ねえさま。
「中国でも韓国でも、九尾狐で通用するの?」
と聞くと、
「もともとご先祖の妲己(だっき)ねえさまが、
古代中国の殷でちょっと悪さなさっただけなのですけど…。
たぶんその記憶が東アジア一帯で
連綿と受け継がれているに違いないのです」
とすでに酔いが回り、
ちょっと着崩れて艶めかしい感じになった葛葉ねえさまが教えてくれる。
「ひとつの国が滅びるのを、
ちょっと悪さというのは、どうなんでしょうね、あは、あははは」
「仙界まで巻き込んでますしね…」
音音と静葉ねえさまが、
ちょっと縦線が入った感じで笑う。
「まっ、そんなことはいいから飲むのです~」
そう言うと、静葉ねえさまに大きな杯――って、
まるで優勝したお相撲さんが飲むようなおっきな杯!
――を渡す葛葉ねえさま。
004.jpg
静葉ねえさまも、
こともなげにその杯を受け取るし……w。
そこへ給仕とかお掃除とかしてくれる
メイド服を着た狐耳メイドさんとか、
日本髪に髪を結って着物を着た狐耳芸者さんたちとかが、
一升ビンからお酒をそそぎ始めてるっ!
「では静葉ちゃん、ぐぐ~っと▽」
いっぱいになったところで、葛葉ねえさまが勧める。
「では▽ いただきま~す」
あっという間にイッキ飲みしちゃう静葉ねえさま。
良く溺れないなぁ…。
「ぷは~」
「じゃあ、今度は葛葉さまの番ですわ」
杯を受け取り、
お酒をついで貰うと葛葉ねえさまも一気に飲み干した。

第5章 その2につづく
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