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「二楽亭へようこそ」その12 [小説]

第4章 その1

鎌倉府のもっとも重要な霊的方角は、
鶴ヶ岡八幡宮の艮(うしとら)にあたる西御門(にしみかど)。
その艮=鬼門に府立西御門学園は立っている。
校舎のすぐ裏が山になっているので、
体育館の裏などは、うっそうとしていて、
昼間でも薄暗くて不気味な感じがする。
そんな体育館裏の道を、
長い髪を、リボンで後ろにまとめた
高等部2年・那須野結繪が歩いている。

その細い腰には、
ホルスターのようなベルトに、
大刀と小刀を帯刀(たいとう)している。
結絵が体育館の角に近づくと、
その前方を、3人の男子生徒が塞(ふさ)いだ。

どんな学校にも『不良』と呼ばれる類は存在するけど、
私の通う西御門学園は違うと思ってた。
でも、今、私の目の前にいるのは、
この禁煙主流のご時世に、
この若さでタバコふかしている、
いかにも頭の悪そうな男子生徒3人。
これはどう見てもステレオタイプの不良男子生徒だよ…。
「高校って、
別に義務教育じゃないんですから、
そんなアピールしてまで、
学校に来る必要なんかないんじゃないですか…」
「なんだとっ!?」
「ここが近道なので、通りたいだけです。
ただ…私の通り道で、タバコを吸って欲しくないなぁ。
――臭いから」
「それは俺たちにどこかへ行けってことか?」
「はい▽」
「なんだとっ!」
満面のほほえみで答えて上げたのに、
頭から湯気が出そうなほど怒ってる。
まあ、当然の反応かな。
「だいたいあなたたち、
ホントはウチの生徒じゃないでしょ?」
なんて言ったら、更に怒ったみたいで、
みるみるうちに変身していく。
筋肉が盛り上がり、
爪が伸びて、角が2本生えてきて……はい、鬼のできあがり♪
「やっぱり鬼化ウィルスのキャリアかぁ…」
日本人は、もともとこのウィルスの感染者が多いんだけど、
キャリア当人が思い切り落ち込んで、
更に陰の気を持ったあやかしに取り憑かれないと発現しない。
だいたい普通は、
発現すると言っても、
第1期では、キレたり、無差別殺人に走るだけで、
鬼に変身するケースなどほとんどない。
ところがこのウィルスに遺伝子操作して、
ちょっとキレるだけでも鬼に変身するよう細工したヤツらがいる。
今、ウチの生徒会や体育会文化部連合が、
必死で犯人捜しをしてる最中。
あ、ウチの高校、ちょっと特殊で、
異界=幽冥界との接点になってる鎌倉府を守護する弾正府を兼ねてるの。
だから、生徒の3/4ぐらいが、
ずーと昔から、
あやかしとの契約関係を持つ家の出身者とその家来筋で占めてる。
そして、そんな生徒すべてが、
天狐・葛葉ねえさまと契約している私、
弾正尹(だんじょうのかみ)・那須野結繪の配下になってる。
それ以外の一般生徒は、
文武のどちらかに優れた成績優秀な人しか入れないハズで、
こんな不良がここに居るはずがないんだよね。
「剣術は習ってるけど、
鬼相手に手加減出来るほどの腕前じゃないので、
あばらの2、3本は覚悟してね」
そう言いながら、
体勢を低くして愛刀小狐丸に手を掛ける。
結繪刀2.jpg

第4章 その2につづく
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「二楽亭へようこそ」その13 [小説]

第4章 その2

この小狐丸は平安時代にやんごとなきお方が、
刀鍛冶の三条宗近と
伏見稲荷の神霊に鍛えさせたという刀で、
刀身に狐の絵が彫ってあるのがかわいい。
その鍔(つば)に指をかけ、
鯉口を切る。
――と同時に、刀を寝かせて、
右に一回転しながら刀身を相手の胴へと叩き込む。
直後、左に旋刀してふたり目をなぎ倒しながら、
3人目には地面を刷り上げるようにして横腹を峰打ちで一閃する。
私が走り抜けた後、
鞘に刀を収めると同時に3人が倒れる。
(うーん、決まったっ!)
と思ってたら、
「結繪ちゃん、カッコイイって思ってますわね?」
と頭上がら声が降ってきた。
「音音――」
いつからそこで見ていたのか、
大ぶりのクヌギの枝の上から私の横に飛び降りてくる。
あ、スカートがまくれて、
レース使いの白の大人パンツが丸見えになった。
音音、エロい……。
音音ジャンプ.jpg
音音は、同い歳で、親戚で、幼なじみで、
この弾正府では、
弾正忠(だんじょうのちゅう)として私の補佐をしてくれてる。
沈着冷静で才色兼備な上に
私より胸が大きいのはちょっとずるいと思う…。
「あの方たち、
十中八九、遺伝子改造新型鬼化ウィルス、
つまりディアボロに感染してるはずなので、
科学部に回しときましたわ」
そう言われて振り向くと、3人の姿はもう無かった。
確かにディアボロに感染しているなら、
処置は早い方がいい。
なんといってもディアボロというタチの悪いウィルスは、
ワクチンがまだ完成していないんだから…。
ワクチンの開発ができるまでは、
感染者は低温体温療法による一種の仮死状態
=凍結処分にしておく以外に方法がない。
(それにしても音音って、
ホントやることにソツがない)
私と音音は同じ化野家の家系に連なっている。
彼女の家の方が本家筋で、
契約しているあやかしは、地狐の静葉さま。
本来ならば、容姿、能力、家柄とか、どれをとっても私より上な音音が、
弾正尹になるはずなんだけど、
子供の頃のちょっとした手違いで、
音音は私の補佐に回ることになった。
でも、音音はその方が性に合ってるて言ってくれて…。
音音になら安心して背中を預けられる。
なんて、ひとりで感慨にふけっていると、
二人の携帯が同時に鳴る。
「生徒会長から………、
やっと犯人の目星がついたみたいですわね」

第4章 その3につづく
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「二楽亭へようこそ」その14 [小説]

第4章 その3

「だれ? このヒュースケンって?」
結音音ヒュース.jpg
メールに犯人として名指しされた外国人ヒュースケンという名前には
まったく聞き覚えがなかった。
いっしょに送られてきた画像は
江戸時代ぐらい昔の人が描いた
馬に乗ったヒュースケンの絵だったけど、
写実性は全くなくて、何の参考にもならない。
「幕末にアメリカ公使ハリスの通訳として来日して、
麻布で薩摩藩士に斬り殺されたアメリカ人男性ですわ」
「…はぁー、音音、ホント細かい歴史のこと、
良く覚えてるね。でも、そんな死人がなんで…」
「誰かさんが復活させたんだと思いますわ。
得意のキセキとやらで――」
その声を遮るように、キテレツなイントネーションな男の声が響いた。
「oh、誰かさんとは失敬な。
我が主はホントにスバラシお方デース。
故国にも帰れず、彷徨っていた私の魂をお救いくださり、
肉体に戻してくださったのですyo!」
いつの間にか前方に、
割と筋肉質で、メキシコ人っぽい
ごっつい顔つきの外人の男が立っていた。
「弾正尹・那須野結繪殿と
弾正忠・化野音音殿デスね? 
音音さん、あなたもいたとは、ちょっと計算違いですが、
ま、いいでしょー。お初にお目にかかりマース。
私、オランダはアムステルダム生まれのアメリカ人、
ヘンリー・コンラッド・ヨアンネス・ヒュースケンと申します。
以後よしなニ」
「名前ながっ! 
なに? この良く喋る人…」
「結繪ちゃん、
彼がリビングデッドのヒュースケンですわよ」
「えっ!? さっきの絵の人?
全然似てないじゃんっ」
それを聞いていたヒュースケンは、
「……まったく…、
あの絵デスカ。あの絵も酷かったですガ、
今度は生きた死人扱いですか…ふー…」
とひと息ついたかと思ったら、
額に青筋をたてていっきにまくし立ててくる。
「この国の野蛮人どもは、
私をカタナブレードで斬殺し、
あろうことか異教のテンプルに葬ったんでス!!
そのうえ、キセキにより復活した私をリビングデッド呼ばわりとは! 
まさに神をも恐れヌ行いなのデース!!!!」
なんか目つぶって、握りしめた拳がぷるぷるしてる。
ナルっぽいよこの人…。
「150年ぶりに蘇ってみレば、
この国では、まだマダやおよろずという
異教の神とその信徒どもが跋扈(ばっこ)してル様子。
とりあえず、鎌倉に来る途中、
横須賀線で見かけた、
無学で無軌道で無宗教でキレやすそうな若者を
コンヴァーションさせて連れてきましたヨ!」
それを合図にしたかのように、
ガサガサという音といっしょに、
ヒュースケンの背後の山から、鬼どもが数体現れた。
「こんばーじょんってなに?」
「宗教とか宗派とかを変えさせることですわね」
「ディアボロに感染させて?」
「そのようですわね」
そんな会話をしながら、油断なく周りを伺うと
山の中にまだかなりの気配がする。
20体はいるなぁ…。
「こうも簡単に西御門の結界を破られるなんてね」
「結界は生きてますわね。
――来ます。左の7体をお願いしますわ」
鬼化しちゃうと、筋力は数倍になるし、
凶暴化した上に恐怖心が無くなるから始末が悪いんだよね。
オマケに元々人間だから、
派手に壊すことも出来ないし…。
「先ほど、生徒会長にメールを送りましたので、
間もなく援軍がくるかと――」

第4章 その4につづく
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「二楽亭へようこそ」その15 [小説]

第4章 その4

「HAHAHA!! 
ミーも先日蘇ったばかりですが、
携帯が便利なグッズだということは知ってマース」
「………」
幕末の人だっていうから
時代遅れなヤツかと思ったけど、
そいえばコイツは遺伝子操作したウィルスをばらまいてるんだったけ…。
「主から頂いた、この聖なる機械(マキナ)で
西御門結界の中にもうひとつ結界をはり、
電波は遮断させていただいてマース!」
そう言ってアンテナが3本も出ている
トランシーバーみたいな携帯ジャマーを見せるヒュースケン。
「あれはたぶん、電波法に抵触しますわ」
冷静につっこむ音音に、
「主は超法規的存在なのでノープローブレムでーす。
税金もかかりまセん」
とヒュースケンがマジレスをつける。
それを聞いて音音が、
「うらやましいですわ…」
と心底うらやましそうに言った。
(そいえば、音音の家はやたらでかいから、
固定ナントカ税が大変とか言ってたな…)
そんなことを考えつつ、
迫ってくる鬼たちの攻撃を右へ左へとかわしながら、
じりじりと後退していく。
「援軍来ないみたいだね」
「では、仕方ないですわね」
音音とアイコンタクトすると、私は愛刀<小狐丸>を天に掲げて、
音音も愛刀<狐ヶ崎>を地に向けてそれぞれの守り神の名を呼ぶ。
「天狐・葛葉ねえさま!」
「地狐・静葉ねえさま…」
すると、ふたつの光り輝く珠が中空に現れ、
絢爛(けんらん)な巫女服を着た、
狐の耳としっぽを持ったふたりの女性が現れた。
「静葉ちゃん、久しぶりのお呼びと思えば、
周りは鬼だらけなのです」
葛葉静は.jpg
「ちょっと多いですね…。
今夜は大山阿夫利神社門前のお豆腐屋さんから、
あぶらあげでもお取り寄せいただいて、
ごちそうしていただけるのでしょうか?」
静葉ねえさまにそう聞かれて、
「たぶん問題ないと思いますわ。
生徒会長に奢(おご)らせますので、
どうかお力をお貸しくださいませ」
と、音音はきっぱり言い切った。
「了解なのです! 静葉ちゃん…」
葛葉ねえさまがそう言うと、
静葉ねえさまが尾の毛を数本抜いて、ふっと吹く。
すると、光の矢がヒュースケンと鬼たちのアゴ2カ所と
手の親指の付け根に突き刺さる。
「静葉ちゃんの経絡針麻酔は良く効くのですよ」
葛葉ねえさまが、涼しい顔で解説してくれる。
ヒュースケンは小刻みに震えてはいるけど、
何とか立ちつづけてる。
でも、鬼達はがっくりと膝を落とし、その場に倒れ込んだ。
私はヒュースケンにつかつかと近づくと、
持っていた携帯ジャマーを小狐丸の石突きでつついて落とすと、
ジャマーの上に踵(かかと)を落としてたたき壊す。
それを何も出来ずに見ていたヒュースケンが、
「My GOD――!!!! 
主から頂いた聖なるマキナになんてことを!! 
この罰当たりめっっ!!」
そう叫んでブチ切れた。
あー、ちょっと挑発しすぎちゃったかな?
ビキビキと音を立ててヒュースケンの筋肉が盛り上がり始める。
自由を奪ってた静葉ねえさまの尾の毛が抜け、
ヒュースケンが完全に自由を取り戻しちゃった…。

第4章 その5につづく
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「二楽亭へようこそ」その16 [小説]

第4章 その5

さらに、何か技を繰り出すつもりなのか、
ヒュースケンの腕が
バチバチと音を立てて帯電してる。
こちらは、ただ待ってるのも芸がないので、
「マッチョは女の子に嫌われちゃうよ~」
と茶化してみる。
「ぬううぅ!! 使徒に対して
どこまでも傲岸不遜なその態度っ!
極東の三等人種に災いあれっ! 
天罰覿面(てきめん!)
The Last Judgement――――ッ!!
(ザ・ラスト・ジャッジメント!!)」
怒りで顔をまっかにして、
そう叫びながら帯電した腕を振り下ろしてくるヒュースケン。
その横っ面に、
上空から降ってきた男子生徒ふたりが、
思い切り蹴りを浴びせる。
「ぶるるぁあああっ!!」
ワケの分からない叫び声を上げて、
ヒュースケンは地面に転がった。
そのヒュースケンを蹴り飛ばした反動で後ろに飛んで、
くるくると三回転して着地した男子生徒は、
「日出(いず)る日ノ本に対し、
極東とは不遜(ふそん)な物言い。
バテレンの暴言聞き捨てならん!! 
鎌倉府弾正府猫部司(びょうぶのつかさ)
石田敏夫見参っ!」
と言い放ってポーズを取ると、
細長い手裏剣の一種・飛苦無(とびくない)を取り出した。
偵察や工作が主な仕事になる猫部は、
身の軽い生徒が多いんだけど、
そのなかでも司を勤める石田は、
弾正府でも1,2を争う機敏さで有名な生徒。
つま先でとんとんとリズムを取りながら、
いつでも攻撃できる態勢を取ってる。
「近衛二番隊筆頭三峯三狼…」
そう言って、すっと立ち上がったもうひとり、
三狼は私の幼なじみ。
頭の左に角が生え、
左手と左足が鬼化している。
その姿を見た血まみれのヒュースケンが、
「ヘイ、ユ――ッ! 
ディアボロに感染して、
何故その力を制御しているのデスカ―――っ!?」
と驚いた様子で叫ぶ。
私と音音、それから十三部衆は、
契約した神やあやかしたちの庇護(ひご)下にあるので、
通常の鬼化ウィルスが発現することはまずない。
だけど、ディアボロウィルスは、
そんな私たちでも感染すれば発現する。
それほど強力にディアボロは遺伝子操作されている。
三狼は、ここ数ヶ月に渡って発生している、
鬼たちが起こす一連の事件のさ中、
ディアボロに感染し鬼化してしまった。
普通なら凍結処分にされるところなんだけど、
三狼は発熱と自分の精神力でウィルスを押さえ込み、
今は力が必要なときだけ、
鬼化することができるようになっていた。
「精神一統何事かならざらん、
つまり気合いってヤツだよ」
黙っている三狼の代わりに石田がそう言うと、
飛苦無をヒュースケンの影に投げつけ動きを封じてしまう。
とどめとばかりに、みぞおちを思い切り蹴りつけると、
「ve…verdammen…」
と呻いて、ヒュースケンは気を失ってしまった。
「ふぇ…ふぇあ…だ…? 
音音、このおじさん、今なんて言ったの?」
「フェアダンメン、ドイツ語で“畜生”ですわ」
ne1.JPG
「ど、ドイツ語…。音音、ドイツ語も分かるんだ~…」

その6へつづく
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「二楽亭へようこそ」その17 [小説]

第4章 その6

そんな会話の横で、
三狼がヒュースケンに魔封じの護符を貼り付け、
駆けつけてきた弾正府の特別警備員に引き渡すのを、
静葉ねえさまが黙ってみている。
「ご指示通り西御門内の警戒レベルを特1まで上げました」
「結構です。彼の血から、
ワクチンが出来る可能性が高いですわ。
絶対に逃がさないようにね」
音音が警備員にてきぱきと指示を出している。
そこに、生徒会長を兼任する
鳩部司(きゅうぶのつかさ)宮本鳩太郎が現れた。
「敵の侵入を許したとのこと、
誠に申し訳ありません。早急に原因を究明すべく………」
と詫びを入れる鳩太郎に、
「あ、Qちゃん!」
と鳩太郎が嫌がる呼び方で答える葛葉ねえさま。
「鳩太郎です…葛葉さま……」
飽くまで冷静を装う鳩太郎だけど、
一瞬、額に血管で怒りマークを浮かばせたのを、
私は見逃さなかった。
そんな鳩太郎の気持ちを知ってか知らずか
葛葉ねえさまが食べ物の催促を始めた。
「まあ、そんな細かいことは気にしないのです。
それよりも、鬼どもを退治たのですよ。
力を使ったので、
お腹がすいたのです。
大山阿夫利門前の大出豆腐店から、
あぶらあげを取り寄せてくださるとか…」
それを聞いてl静葉ねえさまが、耳をぴくぴくさせてる。
静葉おねだり.jpg
普段は物腰やわらかで、
眉目秀麗、沈着冷静な静葉ねえさまだけど、
ああ見えて、好物のあぶらあげとお酒のことになると、
目の色が変わるんだよね。
鳩太郎はにっこり微笑みながら、
「で、では直ちに早馬を--」
と言うと伝令にバイク便の指示を出す。
そして鳩太郎は、
にっこり笑ったその笑顔のまま、私の方に振り向くと、
「結繪さま、お店の指定は受けないでくださいと、あれほど――」
と小声で窘(たしな)めてくる。
「えっ!? だって、それ音音が…」
「まぁまぁまぁ、
ヒュースケンなんていう大物を捕まえたのですから、
やんごとない筋もきっとお喜びですよ。
良いではないですか?」
と音音が割って入る。
「音音様がそうおっしゃるなら…」
「では、会長は宴席の用意を……」
Qちゃんがあっと言う間に丸めこまれた。
私はダメで音音ならいいってどういうことっ!
「音音、ひどいよぉっ。
コレじゃ私が悪いみたいじゃない……」
振り向いた音音が、私の耳元で囁いた。
「ごめんなさいませ。
そのかわり、
このあとの宴席でのお席、
二狼にいさまのお隣にしてさしあげますから、ね? 
よろしくて?」
//////真っ赤//////。
二狼にいさまは、三狼のお兄さまで、
弾正府最強といわれる狼部に所属している。
斬馬刀という、
通常よりも長い刀を得物とする
狼部の長たる司(つかさ)をまかされるほどの腕前。
幼いころから、
ずっと修行に出されていた二狼にいさまと初めて会ったのは、
私が小6で、二狼にいさまが中学一年生のとき。
弟の三狼とはひとつしか違わないのに、
もうすっかり大人びて見えた。
二狼にいさまは、私の憧れの――初恋の人だったりする。

第5章につづく
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「二楽亭へようこそ」その18 [小説]

第5章 その1

西御門学園の武道棟は、結界のせいで、
普通の人には四階建てにしか見えないけど、
実は鎌倉府条例違反の地上十四階建て。
その屋上には、
大小ふたつの辰狐(しんこ)池と貴狐(きこ)池を配した
純和風の空中庭園がある。
葛葉ねえさまと静葉ねえさまの妖力で、
季節は常に秋に固定されていて、
紅葉や曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の鮮やかな赤が
いつも綺麗で風情があるなぁと思う。
そして、池の畔に佇む寝殿造りっぽい建物は、
私と音音、葛葉ねえさまと静葉ねえさまが住む二楽亭。
その二階の大部屋には、
弾正府の非番の人たちが集まって、今や宴もたけなわ。
「清酒大吟醸九尾狐」
「こちらは韓国のお酒、九尾狐(クミホ)マッコリ」
「中国酒の九尾狐香雪酒▽ どれも美味しそうですわ♪」
三種類のお酒を目の前に置かれ、
満足そうな葛葉ねえさまと静葉ねえさま。
「中国でも韓国でも、九尾狐で通用するの?」
と聞くと、
「もともとご先祖の妲己(だっき)ねえさまが、
古代中国の殷でちょっと悪さなさっただけなのですけど…。
たぶんその記憶が東アジア一帯で
連綿と受け継がれているに違いないのです」
とすでに酔いが回り、
ちょっと着崩れて艶めかしい感じになった葛葉ねえさまが教えてくれる。
「ひとつの国が滅びるのを、
ちょっと悪さというのは、どうなんでしょうね、あは、あははは」
「仙界まで巻き込んでますしね…」
音音と静葉ねえさまが、
ちょっと縦線が入った感じで笑う。
「まっ、そんなことはいいから飲むのです~」
そう言うと、静葉ねえさまに大きな杯――って、
まるで優勝したお相撲さんが飲むようなおっきな杯!
――を渡す葛葉ねえさま。
004.jpg
静葉ねえさまも、
こともなげにその杯を受け取るし……w。
そこへ給仕とかお掃除とかしてくれる
メイド服を着た狐耳メイドさんとか、
日本髪に髪を結って着物を着た狐耳芸者さんたちとかが、
一升ビンからお酒をそそぎ始めてるっ!
「では静葉ちゃん、ぐぐ~っと▽」
いっぱいになったところで、葛葉ねえさまが勧める。
「では▽ いただきま~す」
あっという間にイッキ飲みしちゃう静葉ねえさま。
良く溺れないなぁ…。
「ぷは~」
「じゃあ、今度は葛葉さまの番ですわ」
杯を受け取り、
お酒をついで貰うと葛葉ねえさまも一気に飲み干した。

第5章 その2につづく
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「二楽亭へようこそ」その19 [小説]

第5章 その2

しばらくすると座も和んできて、
すっかり酔っぱらった葛葉ねえさまと静葉ねえさまが
カラオケに興じている。
音音は、
約束通り二狼にいさまの隣の席にしてくれたんだけど、
にいさまはヒュースケンの取り調べ中とかで、
まだ宴会には来ていない。
私の反対隣りには、三狼がいて、
黙々と食事をしている。
三狼とは子供の頃から、ずっと一緒にいる幼なじみ。
だけど、三狼ってば、
鬼化してからは、あんまり喋ってくれなくなった。
私は昔みたいにおしゃべりしたいのになぁ……。
「…あぶらあげ、おいしい?」
と唐突に聞いてみる。
「うまいよ…」
「そ、そう。よかったね」
「うん………」
(あんたが何か言ってくれないと、会話にならないでしょ?)
全然会話が繋がらなくて、
心の中で怒っているとこへ、
『♪じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、じゃ、じゃ…』
という、賑やかなイントロとともに、
広間のモニターに人魚のアニメのPVが流れ始める。
(あっ、音音がねえさまたちの
ぴちばちびッちメドレーに巻き込まれた…)
このままここにいると、
私もマーメードの一員にされて、
“振り”まで強要されちゃうのは時間の問題かも…。
こんな心配をしなきゃけないのも、
宴会始まってから一時間にもなるのに、
三狼が何時までも食べ続けてるからだよ!
あんたとろくにおしゃべりも出来ないうちに、
宴会芸大会になっちゃったんじゃん。
「ね、もういっぱい食べたでしょ? 
この部屋暑すぎるから、ちょっと涼みに出ようよ」
「あ、もうちょっと食べたら…。
アレ(鬼化)するとすっごくカロリー消費するから
食べないと血糖値が下がっちゃうんだ」
「けっとうち?」
「下がると意識が朦朧(もうろう)とする」
「…って、糖尿病の患者さんみたいなこと言ってないで…!」
あー、もうイライラするとノドが乾く。
ふと目に付いた
隣の二狼にいさまの席に置いてあったコップを
ぐいとイッキ飲みすると、それはお酒――っ!?
手で口を押さえて、
慌てて洗面所に行こうとした瞬間、
後ろからガッと肩を掴(つか)まれた。
「結繪ちゃ~ん~、
貴女もいっしょに歌うのです~」
ごっくんっ――。
うー、マズー……!! 
思わず、お酒全部飲んじゃったよっ!!
狼狽(ろうばい)して振り返ると、
そこにはマーメードのコスプレをした葛葉ねえさまたちが居て……
……って貝殻のブラはイヤ―――ッ!
逃げようとバタバタするものの、
葛葉ねえさまたちの力にかなうはずもなく…。
「ささ、着替えよっ▼」
そう言って、下から扇で仰ぐと、
何か下から光がわき上がってくる。
一瞬まぶしくて目を閉じると、
もう次の瞬間には貝ブラ&魚しっぽのマーメードにされていた…orz…。
結繪水着.jpg
私がこんなことになってるのに、
三狼のバカは一心不乱にまだご飯食べてるし……。
二狼にいさまも来ないし、頭は少しぼーっとしてくるし、
もう、なんだかどうでも良くなっちゃって…。
カラオケがかかると葛葉ねえさまたちに合わせて踊って歌う。
あはは、おもしろーいっ……!
あれれ、なんで天井回ってるの……。

その3につづく
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「二楽亭へようこそ」その20 [小説]

第5章 その3

どのぐらい時間がたったのだろう。
気がつくと、横になっていた私。
遠目に曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の赤い花々が目に飛び込んできた。
0112.JPG
別名狐花-キツネバナ-。
球根に毒はあるけど、
私はこの、はかなげで綺麗な色をした花が好き。
何時の間に連れて来られたのか、
池の向こう側には二楽亭が見えている。
そっちの方から、プリキョアの曲がかすかに聞こえてくる。
葛葉ねえさまたちのカラオケは、
魔法少女ループに入ったみたい。
音音、今晩徹夜は決定かな。
って、ミョーに寝心地良い枕の上で思う。
ん? けど、ココどこ?
ガバッと起き上がると、
私の上に掛けられていた学制服が、
ばさっと音を立てて下の芝の上に落ちた。
え? 自分のおへそが見えるってことは…
まだ貝ブラコスのままっ!?
「きゃぁあ」
思わず声を上げる私に
「起きた? もう大丈夫か?」
そう声を掛けてきたのは三狼だった。
どうやら私に膝枕してくれてたらしい。
三狼って、物静かだし、
自己主張もあんまりしないので、
大人しいイメージがあったけど、
ディアボロに感染してから、
なんか少し男らしくなってきた感じがする。
「急に倒れたからびっくりした。
未成年なんだから、お酒飲んじゃだめだ」
「好きで飲んだんじゃないもんっ!」
ズキ―――っん!
大声を出すと頭が痛い…。
こ、これが噂に聞く二日酔い?
まだ二日たってないんですけど…。
頭の回りで、ズキズキズキズキという効果音が
回っているような感じがする…。
「大丈夫?」
「ぜんぜん大丈夫じゃない…。
二狼にいさまのお膳のコップの中身がお酒で、
間違って飲んじゃったんだもん…。
でなきゃ誰があんな不味いもの……。
でも、膝枕してくれてたんだよね」
「……うん」
「うっ…あ、ありがと…」
「ああ。冷たい水もらってくる」
「…ま、待って」
そう言って、立ち上がった三狼の手を
反射的に掴んでしまった私。
「…あの…その…最近あんまり話せないし、だから、えーと…」
(私、何したいの? なんで三狼を引き留めたの? 
私……まだ酔ってる…? ううん、もうお酒は残ってない
……ホントは私…)
結繪人魚1.JPG
沈黙の中、風に揺れる草の葉音だけが響いてる…。

第6章につづく
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「二楽亭へようこそ」その21 [小説]

第六章 その1

ふたりが沈黙した一瞬の静けさのあと、
その静寂をやぶるかのように、
武道棟全体に警報音が鳴り響く。
『全館に警報! 敵襲です。
艮(うしとら)・大平山(おおひらやま)方面よりコードネーム出雲進行中。
従四位相当、ラフカディオ・ハーン。日本名小泉八雲。
蜂部(ほうぶ)・虎部は小隊単位でただちに出撃してください。
非戦闘員は至急……』
出撃を促すアナウンスが急を告げる。
小泉八雲? 
今度はさすがに知ってる。
日本に帰化して『耳なし芳一』とか書いた人だ。
教科書で見た写真は割りと優しそうな感じの人だったけど…
なんて考えてたら、
二楽亭の2階から飛び出した葛葉ねえさまが、
こちらに向かって文字通り飛んできた。
「結繪さん、大物の来襲なのです! 
飛びますから、掴まるのです!」
「は、はい! あ、でもその前に服を…」
さすがにこの人魚のコスプレで出撃するのは恥ずかしすぎるよ~っ!
結繪葛葉人魚2.jpg
「あ、そうですね」
そう言って葛葉ねえさまは
さっきと同じように私を扇で扇ぐと
一瞬ひかりに包まれて、元の制服姿にもどった。
「では参ります」
「三狼、遅れないでっ!」
言いながら葛葉ねえさまの腕を掴む。
するとまるで体重などないかのように、
ふわりと空中に浮かび上がる。
音音と静葉様も合流してきた。
「結繪さん、今日は白と黄色のシマシマですのね」
「えっ!?」
後ろにいる静葉様にそう言われて、
パンツが見えちゃってることに気がついた私。
慌ててスカートを押さえても、
片手だとバタバタが上手く押さえられない~~~。
はっ、として下を向くと、飛んでいる私たちの下を、
木のてっぺんを飛ぶようにしてついてくる三狼が、
鼻血をハンカチで押さえている。
「!?///////わ、バカ、三狼上見るなっ!」
「あらあらww、三狼さん鼻血ですか?」
静葉ねえさまが笑いをこらえながら茶化す。
「結繪ちゃん、暴れちゃダメなのです~!」 
葛葉ねえさまがバランスを崩す中、
途中で着けたインカムから情報が入ってくる。
『蜂部(ほうぶ)前衛が出雲と接触します』
「こちらも間もなく接触します。
蜂部・虎部は一撃して市営テニスコートまで後退、
鹿部(ろくぶ)と合流し防衛線を構築してください」
音音は、そう指示を出した後、
こちらを向いて、インカム越しに戦略予想を言ってくる。
『結繪ちゃん、定石なら裏鬼門・未申(ひるじさる)から、
別働隊が侵入してくる可能性が大きいです』
「さすが音音!」
「軍略は音音さんの好きにしてもらっていいと思うのです」
音音は、こちらに目配せしてうなずくと、
『出雲は”囮”の可能性が高いです。
狼部は現状維持でヒュースケンを護衛。
鷲部・牛部は国大付属小学校陸上トラックに展開。
狸部・兎部は第二運動場にて迎撃用法陣を組んでください』
と指示を出していく。
その最中、森の中から殷々(いんいん)と声が響いてくる。

第6章 その2につづく
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