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「二楽亭へようこそ」その30 酒虫 その4 [小説]

ちょっとあの酒虫の映像を見た後では、
さすがに誰も食指が動かなくて、
その日はすごすごとお店を後にした。
音音だけはお腹が空いたからと言って、そのまま店に残った。
どんだけ健啖家なんだ…。

今回の一件は、
地下室(地下迷宮というのは音音の演出…)が発見されて以来、
急に大酒飲みになったお店の主人を心配した家人が、
中華街にいる道教の導師に相談した結果、
弾正府に回ってきたらしい。
そして1週間後、ふたたびあのお店。

もう14時を回るというのに、
件(くだん)のお店の前には長蛇の列ができていた。
あの酒虫をオッサンから取って以来、なぜかお店は大人気店になり、
今では半年先まで予約が入っているという。
「この大繁盛は化野様のおかげです」
店先に現れた店主は、そう言って下にも置かないもてなしぶり。
1010.JPG
2階の貴賓席に通されると、
次々にお料理とお酒が運ばれてくる。
お料理はすごくおいしくて、
例の麻婆豆腐のほか、
おいしい中華料理を
回るテーブルで思い切り堪能して大満足な私。
「こちらは当店で一番のお酒でございます」
そう言って出されたお酒に、
「こんなに美味しい老酒は初めてなのです~」
と葛葉ねえさまも静葉ねさまも舌鼓を打った。
「そうでございましょう?
あの日、化野様が教えてくださったとおり、
アレを名水につけておくと、
今まで味わったこともないような名酒が醸(かも)されて、
今やそれが評判に評判を呼んで、この通り大繁盛でございます」
「文献にあった通りなのですわ」
と音音は鼻高々。
「なに文献って?」
「え? 前にもお話した
聊斎志異の『酒虫』ですけど…」
それって、ちょっとイヤな予感が…。
そんな私の不安をよそに、
「マスター、アレ持っていらして」
と言って何かを持ってこさせる音音。
そしてカートに乗せられて出てきた大きなガラスビン、
その中にはアノ酒虫がうねうねと……。
「この酒虫、この方から
出てらっしゃったもの…」
と店主を指さして言うと、
ねえさまふたりはトイレに向かって駈けだした。
「?」
「お店ではキモかわいくて美味しいって評判なのに、
おふたりともどうなさったのかしら?」
と首をひねっている音音と店主に、
「もしかしてそのお酒、料理にも入ってる?」
っと半分腰を浮かせて聞くと、
「え? うん。もちろんですわ」
ときょとんとした表情で答える音音。
確かに味はいい。
でもあのビジュアルはどうしてもダメ~~!
涼しい顔をして食べ続けている三狼を横目に、
ねえさまたちの後を追いかけた私だった。

酒虫 おわり 第3話につづく
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