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「二楽亭へようこそ」その32 「瑞葉が来た日」その2 [小説]

その2
東京駅から久里浜駅までを結ぶ横須賀線。
その途中、北鎌倉と鎌倉の間には1カ所トンネルがある。
そのトンネルを抜けた鎌倉寄り、
扇ガ谷(おうぎがやつ)に線路の下をくぐるアンダーパスがあり、
最近、そこで落ち武者の幽霊が出るという噂がたっていた。
「鎌倉府長からの依頼を無碍(むげ)にはできないでしょう? 結繪様」
ここは鎌倉府立西御門(にしみかど)学園。
その敷地内にある武道棟の最上階・武道連合会長室の中。
私の机の前にいるのは生徒会長・宮本鳩(きゅう)太郎。
長髪の貴公子といった感じの彼は、
実際、文武両道に優れた学園のアイドル…と言うのは表向きの話で、
本来の彼は、
鎌倉府の心霊事件の刑事警察権を預かるこの私、
那須野弾正尹(だんじょうのかみ)結繪が率いる十三部集のひとつ、
鳩部(きゅうぶ)を統括する司(つかさ)をしている。
「通称Qちゃん」
「その呼び方はやめてくださいと何度も…
って通称ってなんですか!??」
こんな風に怒ってるけど、
普段の態度から考えると、
Qちゃんって実はドMなんじゃないかと、私は疑ってる。
「そんなこと、稲村ガ崎高校の検非違使(けびいし)にでも
やらせとけばいいでしょ?」
「彼らに霊的捜査なんて出来ないから
弾正府に依頼がきてるんでしょう…」
「でも、実際になんか被害があったわけでもないし…」
「あってからじゃ遅いんです」
鎌倉というのは土地柄、
曰くつきの物件や場所がたくさんある。
ちょっとほじくり返したりすると、いろんなものが出土する。
ちなみに由比ガ浜にある簡易裁判所では、
その建物を建てるときに、900体以上の人骨が出土した。
だから、”出る”という噂の類ならいくらでもある。
でも、扇ゲ谷あたりでは、
今まであまりそんな話を聞いたことがないので、
ちょっと不思議な感じがするのは確か。
「とにかく! ネガティブな噂は観光地鎌倉にとって致命的なので、
すぐさま噂の素を解消してくれと、鎌倉府長よりの依頼です」
「ふ~~ん。で、誰が行くの?」

その3につづく
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「二楽亭へようこそ」その33 「瑞葉が来た日」その3 [小説]

その3
「それは――」
<トントン……>
会話を遮(さえぎ)るようにドアがノックされ、
「どうぞ」
と答えると、入ってきたのは
狼部(ろうぶ)の先の司・三峯二郎(みつみねじろう)にいさまっ!
180センチ近い身長のせいか、少し華奢に見えるけど、
自分の背と変わらないような長さの日本刀・斬馬刀を操る。
髪をアップにしてるとちょっと怖い感じもするけど、とっても優しいの。
学業の成績も学年で5本の指に入るにいさまは、
まさに文武両道を絵に描いたような人で…
――私の憧れの人/////…。
「会話中失礼! 弾正、化粧(けわい)坂に鬼が出たらしい。
狼部2番隊といっしょに出る」
「あ、は、はい! にいさま、どうかお気をつけて」
「ああ、ありがとう」
そういうと出掛けに私の頭をナデナデしてくれる。
この歳になると、なかなか頭をなでられるという事も無くなるので、
これがなんとも心地よかったりする。
二狼にいさまが嵐のように居なくなると、Qちゃんが、
「で、さっきの話の続きですが…」
と聞いてくる。
「あ、それ、私が行く!」
「えっ!?」
と狐につままれたような顔をしているQちゃん。
化粧坂と言えば、扇ガ谷の目と鼻の先。
とっとと扇ガ谷の事件を解決しっちゃえば、現地で二狼にいさまとばったり→共同捜査▽▽
なんてことになったりして~、あはは、どうしよう~[黒ハート]
「やっぱり府長さんからの依頼じゃ断れないよね! 
だから私が行くよ」
「私も行きますわ」
「音音?」
「おふたりに出かけられると、決裁書類が滞るんですけど…」
「じゃ、今からQちゃんが弾正代行ということで、どう? 賛成の人―」
私が元気よく挙手するのと同時に音音も胸の辺りまで手を挙げる。
「じゃ、Qちゃん、そう言うわけであとよろしくね~」
そう言うと執務室を飛び出した。

その4につづく
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「二楽亭へようこそ」その34 「瑞葉が来た日」その4 [小説]

その4
鶴八の前を通り、扇ガ谷に向かう途中、
「600年ぐらい前に、あのあたりの家で、
匿(かくま)われてたことがあるって、
以前静葉ねえさまが言ってましたわ」
と音音(ねね)。
静葉ねえさまは、音音の愛刀・狐ケ崎に宿る四尾狐。
私の愛刀・子狐丸に宿る五尾狐の葛葉ねえさまの妹なの。
「え? そうなの?」
「はい。那須野で玄翁和尚に殺生石を砕かれた後、
飛び散った石が、葛葉ねえさまたちになったじゃないですか。
静葉ねえさまは、落ちた扇ゲ谷のそばで野犬の群れに襲われ、
そのとき、近所に隠棲していた阿部清明様に助けられたそうですわ」
そんな話をするうちに目的のアンダーパスに到着♪
さっさと噂の素を探して、化粧坂にいる
二狼にいさまとの合同捜査にむかわなくちゃ[黒ハート]
そんな邪(よこしま)なことを考えてたら、
<ガサガサ…>
という音がした。
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振り向くと、
音音がカーブミラーの辺りの草むらを物色してる。
「どうしたの?」
「ここに何だか懐かしい気配を感じますわ」
<カチカチカチッ>
その言葉と同時に、私の小狐丸と音音の狐が崎が鍔(つば)鳴りする。
あ、葛葉ねえさまと静葉ねえさまが、刀から出たがってる…。
私は音音と目を合わせると、小狐丸を抜き、天空に向けると、
「かけまくもかしこき稲荷大神の大前に、かしこみかしこみももうさく…」
と稲荷祝詞を上げ始める。
音音は、狐ガ崎を地面に向け、
「本体真如住空理……」
と稲荷心経をとなえる。
すると中空から、狐耳に狐のしっぽのあるふたりの巫女様が現れた。
「葛葉ねえさま、近くに居ますね」
「静葉ちゃん、間違いないです~」
現れた途端二人は辺りに気を配る。
何が何だかさっぱりな私が、
「ねえ、ふたりともどうしたの?」
そう聞いた途端、
<ザザザザザッ>
と草むらで小さな影が動いてアンダーパスの方へ逃げ出す。
「あ、あそこですわっ」
そう言うと二人ともその影を追って行ってしまった。

その5につづく
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「二楽亭へようこそ」その35 「瑞葉が来た日」その5 [小説]

その5
仕方なく音音とふたりで後を追おうとすると、
アンダーパスの暗闇からいきなりぎらりと槍が繰り出された。
ちょっとよけ損なって、制服の一部を切り裂かれる。
「ったくもー、危ないじゃない!」
暗闇に向かって叫ぶと、その暗闇から、
どう見ても落ち武者という、
ボロボロの甲冑をまとった連中がぞろぞろ出てくる。
「音音、なんかいっぱい出てきたよ…」
「鎌倉時代の亡霊のようですね」
「多勢に無勢だけど、この怪異に出会ったのが、
一般人じゃなくて良かったと思うことにする」
「かなり強力な結界を貼ったようです。携帯も使えません」
じゃあ、ふたりで何とかするしか無いわけだ。
繰り出される槍をかわしながら、
踏み込んでは槍の穂先を切り落とし、亡霊を何体か切り倒すが、
暗がりから次から次へと出てくるので切りがない。

音音にもう少し頑張ってと言われたものの、
だんだんと疲れがたまってきて、少しづつ押され始める。
いきなり縄が飛び出してきて、子狐丸を持つ右手にからみつく。
それを外そうとした左手も絡めとられた。
「あ、方陣のスペル間違えましたわ…」
と言う音音の声に振り向くと、
音音もロープでがんじがらめにされて
なんだかエッチなことになっちゃってる。
身動きできずにいる私と音音に亡霊達が殺到して、
制服に手を掛けようとしてる。
「いやぁぁ!!! 三狼っ! 助けてっ!!!」
そう叫んだ刹那、私の服に手を掛けようとした亡霊が、
すごい勢いで吹き飛ばされた。
私の目の前に立ちはだかったのは、鬼だった。
「三狼っ!」
この鬼は私と音音の幼なじみで二狼にいさまの弟三峰三狼。
普段は大人しい高校1年生だけど、
先日鬼化ウィルスに感染し、その力を取り込んで
自在にその力を振るえるようになっていた。
今も鬼化して、うなりを上げて亡霊を威嚇してる。
そこへ、葛葉ねえさまと静葉ねえさまが戻ってきて、縄を解いてくれた。
「葛葉ねえさま! 力かしてくださいっ!! 
このエロ亡霊達をまとめて消してあげる」
興奮してそう言いつのる私に、
葛葉ねねさまたちから意外な返事が帰ってきた。
「結繪ちゃん、ちょっと待って…」
「あの中には私たちの妹がいるの」
「えっ!?」
驚く私を尻目にねえさまたちが、低く呪文の詠唱を始める。
すると、亡霊達がつぎつぎと消えていき、
最後に小さな6歳ぐらいの女の子だけが残された。
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緋袴(ひばかま)を着け、
狐耳ときつねのしっぽを持ったその姿は、
確かにふたりの妹にしか見えなかった。

その6に続く
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「二楽亭へようこそ」その36 「瑞葉が来た日」その6 [小説]

西御門学園の武道棟は、結界のせいで、
普通の人には四階建てにしか見えないけど、
実は鎌倉府条例違反の地上十四階建て。
その屋上には、大小ふたつの辰狐(しんこ)池と
貴狐(きこ)池を配した純和風の空中庭園がある。
この庭園は葛葉ねえさまたちの妖力で、
秋に季節が固定されている。
その池の畔(ほとり)に佇(たたず)む二楽亭。
その二楽亭の二階の大部屋は、今や宴もたけなわ。
Qちゃんは鎌倉府長からの依頼も無事解決してご満悦だし、
二狼にいさまも、無事に鬼退治を完了して、
山盛りのご馳走を黙々と平らげている。
座の中央には、巫女服やメイド服を着た
狐耳、きつねの尻尾な眷属の女の子たちと
弾正府に所属する西御門学園の女子生徒たちが、
例の小狐=瑞葉を囲んでかわいがっている。
でも、瑞葉はまだ固い表情を崩さない。
そんな様子を見ていたら、
窓際の廊下を三狼が通りかかったのが目の端に入ったので、追いかけて声を掛ける。
「三狼!」
「……?」
「ねえ、三狼、さっきはなんでアソコに来たの?」
「…それは、鬼を探してたら、妙な気を感じて…。
意識を集中したら、結繪に呼ばれたような気がしたんだ…」
「ふーん。結界の中だったのによくわかったね。
でも、ま、ホントに助かったよ。ありがと」
そういうと自分の席に戻る。
葛葉ねえさまと静葉ねえさまは、
隣に座ってる音音のそばで、おっきな杯に大吟醸『九尾の狐』をそそいで、
ぐ――っと飲みながら瑞葉のことを話している。
「瑞葉も私たちと同じ殺生石から生まれた子なのです」
「ですが、ちょっと石のかけらが小さくて、
目覚めるまで600年もかかったみたいですわ」
目覚めたものの、初めて目にする電車とか自動車とかが怖くて、
ああして近づくモノを威嚇していたらしい。
「でもあの子のポテンシャルは相当ですわね」
「ええ、この前生まれたばかりだというのに、
あれだけの霊を実体化して操るのですから……」
(実体化って…じゃあ、刺されたらホントに死んでた?)
ガクブルしている私に、葛葉ねえさまは、
「でも、あの子も人を怖がっているだけで、
決して害をなそうとしたわけではないのです。
人との共存が出来るように、
あの子の能力を伸ばしてあげたいのです」
と言った。
コクンと頷く私と音音を見て、瑞葉に声を掛ける。
「瑞葉、こっちにおいでなさい」
そう言われて、立ち上がると、
ててっと葛葉ねえさまたちの正面にやってくる瑞葉。
「瑞葉、そこにお座りなさい。こちらは結繪様と音音様。
このおふたりがこの『二楽亭』のご主人様です」
静葉ねえさまが続ける。
「怖かったかったとは言え、
あなたは、お二人に怪我をさせるところでした」
「静葉ねえさま、私たちは大丈夫だったから、ね」
「いいえ、今日はお二人にご迷惑をお掛けしたのです。
瑞葉、ちゃんと謝れますね?」
「はい」
瑞葉はそう返事すると、こちらを向いて、その場でかしこまり、
「本日は、恐慌をきたしていたとは申せ、
この瑞葉、結繪様、音音様には大変なご迷惑をお掛けしてしまいました。
誠に申し訳なく、伏してお詫び申し上げる次第でございます。
なにとぞ、ご寛恕(かんじょ)ありますよう、
お願い申し上げます」
と完璧に謝ってみせた。
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私、こんな日本語使ったことないよ、この子メチャクチャ頭いい?
謝られてパニッくった格好で、
「は、はぁ」
と脊椎反射的に答えてしまうものの。
音音の耳元で、
「音音ちゃん、ごかんじょってなに?」
と聞くと、
「許してくださいって…」
と説明してくれた。
音音は、
「はい、ではコレで万事解決ですわね」
と言うと、瑞葉を抱き上げる。
「ここは、人もあやかしも楽しく生きられるようにという願いを込めて作られたので、
『二楽亭』というのですわ」
それを聞いて私も続ける。
「今日からここが瑞葉のお家なんだよ。仲良くしようね」
みんなが一斉に瑞葉に言う。
「二楽亭へようこそ!」
その言葉を聞いて、瑞葉は、
今空に浮かんでいる、大きな満月に負けないほどの満面の笑みを浮かべた。

「瑞葉が来た日」おしまい
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