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「二楽亭へようこそ」その29 酒虫 その3 [小説]

「酒~、酒飲ませてくれ~」
うめくオッサンを無視して音音が続ける。
「夕べから仕込んでおいたので、そろそろですわ」
「で、音音これで、いったいいくら貰うの?」
「うはっ! な…何をおっしゃいますの! 
わたくし、こう見えましても名門化野(あだしの)家の跡取りですわ。
お金なんて1円もいただきませんわ」
「ふーん…」
准公務員扱いの弾正府としては、
妖異を退治したからと言って、対価を貰うことはない。
でもまあ、ここでのご飯代ぐらいないら大目に見ようかな。
「で…では、さっそくかかりますわ…」
ちょっとあせりながら、
音音はバッグから取り出したシャンパンの栓を勢いよく飛ばした。
ポン、シュワー…! 
という音とともに泡があふれ出して床を濡らすのを見た
静葉ねえさまと葛葉ねえさまのふたりは、
「きゃー!
ドンペリをこぼしちゃダメです~」
「もったいないですわ~」
と口々に叫ぶと、
どこからかmy杯を取り出して、
流れる出るお酒を受けて飲み始める。
「う~~ん、やっぱりドンペリ、おいしいですわ~」
「甘露なのです~」
と嬉しそうなふたりの声を聞いて我慢できなくなったのか、
「ぐええぇぇ! ぐぉおおっ!」
とオッサンが妙な呻き方をしはじめている。
あ、もしかしてこれ、酒虫が出て来る前触れかな?
身構える一同が見守る中、
オッサンの胃の辺りがモゾモゾして、
そのモゾモゾがノドのアタリまで来たと思ったら
急に静かになった。
身構えて5分、音音と顔を合わせると、
「三狼、見てきてっ!」
と三狼の背中を後ろから押す。
これぜったいトラップだもん。
三狼がおっさんの口をのぞき込んだ途端、
「ぐはぁああっ!」
というオッサンの呻きとイッショに、
口から芋虫のようなモノがモゾモゾと出てくる。
うわー、なんのホラー映画??
気持ち悪すぎて思わず目をそらすと、
ねえさま方もがっくりと膝を着いて口を押さえていた。
音音だけは、用意していたお酒を少し入れたビンの口を開け、
タイミングを計っている。
いい加減三狼に絡みついたところで、酒虫にビンを向けると、
そいつは自分からそのビンに入っていく。
フタを閉めると、モザイクなしには見れない物体が
ビンの中でウニョウニョしている……。
音音酒虫.jpg
「That all、一丁あがりですわ」
音音1.jpg
酒虫 その4につづく
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