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二楽亭へようこそ! 「ふたりの母」その5 [小説]

第5話

雪を寮に送り届けた帰りの車で、
「姐さんも、いいとこありやすねえ」
と関心するキザクラに、
音音は、ちらっと視線を送るとほくそ笑んだ。
「雪のない鎌倉で、
雪を確保するのが大変だったのですわ。
西御門学園に降ったあのきめ細かい雪を
ご覧に成ったでしょう?
夏になってごらんなさい、
本物の雪娘の作ったかまくらで、
パウダースノーかき氷!
長蛇の列は必至ですわ!」
「さ…さすが姐さん…」
リムジンの向かい側の席で関心するキザクラをよそに、
スマホをダイヤルした音音。
「衣装部に連絡して、
雪用に丈の短い白い着物を用意させなさい。
裾にはフリルをあしらって、
男性客の期待値を
いやがうえにもたかめるのですよ」
「…骨までしゃぶる気だな…」
「何かおっしゃいまして?」
「いえ、さすが戦略家だと思っただけで…」
軽口を音音に聞き咎められたキザクラは
車が本宅に到着したのをこれ幸いと
慌てて走りさった。

翌日<かまくら甘味道楽>の事務所で、
制服だと言って着物を渡された雪。
着替えて見ると、
裾がひざ上30センチという過激なミニスカ状態。
160124i1色.jpg
「こ、これを着るんですか?」
顔を赤らめた雪が、
(きっと何かの間違いですよね)
という淡い希望を抱きながら音音に確認するが、
無常にも、
「間違いなく雪、あなた用のものですわ」
とダメ押しされてしまった。
「で、でもボクこんな
女の子女の子した着物は…」
一瞬ためらいを見せた雪に、
「大丈夫、似合いますわっ!
それにこれなら話題性十分ですから、
マスコミも喰い付いてくること
必至なのですわっ!
そうすればマスコミへの露出度も上がって
きっとおかあさまも
気づいてくださるに違いないのですわっっ!」
と弱点をえぐるように諭(さと)して納得させてしまった。
「わ、わかりました…ボク、
がんばりますっ!」
母親会いたさに必死の思いで着替えた雪が
着替えて更衣室から出てきたのを見て、
「イケる! 
このビジュアルに萌えない男はいませんわっ!
この私が100%保証するのですわっ!!」
興奮状態になった音音が、
雑誌やメディアに取り上げさせようと、
スマホでマスコミ関係者に連絡を取りはじめる。
その間も部屋の中で控えていた、
キザクラたちがレフ板をかざして
ポスター用の写真を撮り始めていた。
「写真データ選んだら、
すぐレイアウトに出して!」
こうして出来上がったポスターは、
貼りだした当日にほとんどが盗まれてしまうほどの出来栄えだった。

つづく
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