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「二楽亭へようこそ」その8 [小説]

第3章 その2

角もしっかり生えてる。
もう第3期だ…。
でもさすが、スーパーシングルタスク。
気配には敏感なはずの鬼なのに、
食事に集中してるので、
私の接近にもまるで気付いてないよ。
どっかのファストフード店のゴミを盗んできたのか、
ハンバーガーを一心不乱に漁ってるのが、
暗がりの中でかすかに確認できた。
しかし、なんで私の帰り道に居るかなぁ?
だいたい、いっしょにいるのは、
弾正府狼部(ろうぶ)の所属の護衛とはいえ、
ひ弱な三狼(さぶろう)だし。
本来狼部といえば、
弾正府十三部衆の中でも、最強と言われる武門。
だけど、三狼は、
身長165センチ、55キロと、
お世辞にも屈強とは言えないタイプで
あんまり頼りにならないし…。
だからといって
『鬼』をこのまま野放しにもしておけないし…。
そう思い悩む私に、三狼は、
「結繪ちゃん、ここは弾正府に連絡して、
プロにまかせようよ」
と有り得ない提案をしてくる。
「なっ!? なにバカなこといってんの?」
(あんただってプロでしょっ!!?)
っと心の中でつっこんでみるものの、
「でも、危ないし…」
と、どうやら戦う気ゼロらしい。
「わかった…。一応、本部に連絡しといて」
「うん」
返事しながらケータイメールを送信する三狼。
さっきもう元には戻れないって言ったけど、
『鬼』ってもともと人間なの。
日本人の7割が感染してると言われる鬼化ウィルス。
そのウィルスが発症すると鬼になる。
ウィルスの保菌者が、
異常に落ち込んだり、
過度のストレスを抱えたとき、
陰の気を持った妖異に取り付かれると発症すると言われている。
第1期は、ちょっとしたことでも過剰に反応したり、
キレ易くなったりする。
第2期は、感情の起伏がさらに激しくなり、、
犬歯が鋭くなったり、爪が硬く尖ったりした上に、
暴力的になる。
そして第3期は、角が生えたり、
体格が2周りほど大きくなるなど容貌変化のほか、
さらに粗暴になり、
理性的な会話はほぼ不能になる。
鬼化ウィルス自体は、
古細菌=アーキバクテリアの一種なので、
古来から存在していて、
人に定着しているものの、
よほどのことがないと発症しない。
これまでに
酒呑童子や茨城童子や紅葉など、
鬼化ウィルスが発現した例が数例、古文書に見えるが、
数えるほどでしかない。
つまり、殆ど発症するとはなかった。
ところが、この20年の間に
発症例が10数例報告され、極秘裏に処理されてる。
それだけでも、異常に多い。
最近は、突然キレて無差別殺人に走ったり、
自分の親や子供まで手にかける悲惨な事件が多発してる。
この1年についていえば、
発症数から類推して、
そうした事件を起こした犯人の1/3が
このウィルスの第1期の可能性が高い。
鬼退治も弾正府の仕事のひとつなので、
パトロールなども増えてすっごく忙しくなってる。
現に今だって、私が見つけちゃうぐらいだし…。
「--でも、ヤツが移動するようなら…」
視線を戻すと、鬼は立ち上がって歩きはじめる。
「あっ!? 動いたっ!」
もー、仕方ない、こうなったら、
私がやるしかないじゃん。
だって私は、
弾正尹(だんじょうのかみ)那須野結繪。
人間で言えば対妖摩用警視総監なんだから!
私は、愛刀小狐丸の鯉口を切りながら飛び出して、
「待ちなさい!」
と、鬼に声を投げつける。
46082458_m.jpg
その声に反応する鬼の反射速度は尋常じゃない。
鬼の長い手が、
とっさにしゃがんだ私の頭上をかすめる。
もう、危ないなぁ。
こんなになっても、もとは人間。
だから、最小限のダメージで動きを封じて、
対鬼用の施設に送らなきゃいけない。
それを私の力だけでなんとかしないと…
と人がシリアスに悩んでいると、
後ろから三狼が声を掛ける。
「結繪ちゃん、パンツ見えてるっ!」
って、
「え? キャ――っ」
バ、バカサブ、何言ってんの!?
そんなときは見ても見ないふり、
いいえ、見ないのが紳士ってもんでしょ??
ビリッ!!
気を取られている隙に、
鬼の爪がスカートを切り裂いた。
もうヤダ! パンツが見えちゃってる--。
恥ずかしくて、思わずその場にしゃがみ込むと、
鬼がよだれを垂らしながら、近づいてくる。

第3章 その3につづく。
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「二楽亭へようこそ」その9 [小説]

第3章 その3

私を助けようと、
三狼が木刀で殴りかかるけど、
その木刀をへし折りながら、
三狼を道にそそり立つ竹矢来(たけやらい)に吹き飛ばす。
バキバキと竹の折れる音とともに
竹矢来がなぎ倒される。
「三狼―っ!」
メチャメチャに折れた竹の間で、
起き上がろうともがく三狼だけど、
上手く起き上がれない。
脇を押さえてるから、きっと肋骨が折れてる…。
三狼に気を取られた瞬間、
鬼の殺気が私に向かってくるのを感じた!
(やられるっ!!)
そう思って目を瞑(つぶ)る私に、
「待たせたなっ!」
という頼もしい声が降ってきた。
刀身が180センチもある六尺斬馬刀(ざんばとう)の峰で、
鬼の一撃を防いで立っているのは、
私の憧れの人、
狼部筆頭(ろうぶひっとう)三峯二狼にいさまぁっ!
きゃーん、いつ見てもカッコイイよぉ!!
「あ、ありがとうございます!!」
「弾正様、お怪我は? 
なさそうですね。あとは私にお任せを」
そういうと、私に上着をくれると、
軽く鬼あしらい、みぞおちに一撃をくらわせる。
動きが鈍った隙に、
力封じの札を額に貼り付ける。
ほんの一瞬の出来事。
「にいさま、ありがとう。
でも、弾正様はやめてって言ってるでしょ?」
貸してもらった上着で
破れたスカートをフォローしながら話しかける。
「我ら狼部は弾正様に仕える身。
いくら幼い頃からの知己とはいえ、
例外を作ることは許されません。
とくに人前では…」
ひさしぶりに二狼にいさまとお話できそう――
って思ったら、
「痛っ―――っ!」
という絶叫。
振り向くと、
三狼が救急部隊の担架に乗せられてるとこだった。
って私、一瞬三狼のこと忘れてたよ…。
同じ兄弟なのに、
どうしてこんなに二狼にいさまと違うんだろう?? 
そう思っても、幼なじみだし、
放っとけないよね。
「二狼にいさま、私、三狼についてくね」
「申し訳ありませんが、
こちらの検分などありますので、
そうしていただけると助かります」
「上着ありがと。明日学校で返すから~」
そう言うと救急車に乗り込んだ。

救急車の中で気を失った三狼。
病院で検査すると、肋骨2本が折れていて、
そのまま入院することになった。
三狼のお姉さん、
三峯家の長女、一子(いちこ)ねえが来るというので、
それまで病室にいることにした。
三狼ってば、
相手が鬼とはいえ、
狼部の人間が一発殴られただけで
肋骨2本はいかんだろ?
寝ている三狼の前髪をたくし上げてみる。
こんなに二狼にいさまに似てるのに…。
「このばかちん。
…でも、ごめんね、独断で動いた私のせいだ…」
そのときコンコンとドアをノックする音がして、
一子ねえが入ってきた。
一子.JPG
「結繪ちゃん、ありがとね」
「いいえ」
「コイツ、もともと丈夫じゃないとはいえ、
肋骨2本で気絶とはね…」
「でも、肋骨にヒビが入ると息するのも大変だって…」
「三狼も、三峯家の末弟でさえなければね…」
「………」
「我ら狼部、
武をもって結繪ちゃんに仕えるもの。
十三部衆最強でなければならないの。
だから…」
「でも三狼にだって良いトコはあるんだよ」
「ありがとね。
今日はもう遅いから。
部下に送らせるね」

第3章 その4へつづく
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「二楽亭へようこそ」その10 [小説]

第3章 その4

翌朝、西御門学園へと向かう。
でも、
心に何かひっかかるような感じがして落ち着かない。
今日、本当なら横にいるハズの三狼が入院中で居ないせいだと
自分を納得させようとする。
でも、30分の登校時間がすごく長く感じた。

教室には向かわず、
学園の敷地内にある武道棟を兼ねる弾正府に出仕すると、
白ラン姿の鳩部(きゅうぶ)筆頭で生徒会長な宮本が待っていた。
「こんな朝早くからなんですか、Qちゃん先輩?」
「鳩太郎(きゅうたろう)です! 
それより、夕べの鬼の件ですが……」
q2.jpg
「最近ひっきりなしだよね」
「いくらなんでも多すぎると思いませんか?」
十三部衆のシンクタンク・鳩部のQちゃんが、
こんな持って回った言い方するときには必ず何かあるんだよね。
「…裏がある?」
「ご明察です。
今回捕らえた鬼から分離したウィルスは、
遺伝子に人工的にいじられたあとがありました。
妖異にとりつかれなくとも、鬼化します」
その言葉を聞いた途端、
胸がもやもやするような、
朝の嫌な感じが蘇る。
「………Q、なんで、遺伝子を調べた……」
「狼部の三狼殿が発症いたしました…」
「…そ、そんな…。三峯家といえば、
狼の神に祝福された家柄なのに…。
鬼化なんてありえないっ!!」
私の投げつけた言葉に
Q太郎が冷静に応答する。
「その通りです。
低俗霊など妖異に取り憑かれて発症する鬼化ウィルス。
万が一発症したとしても、
われわれ十三部の家の者なら
NK(ナチュラルキラー)細胞で
すべて押さえ込めるはずです。
なのに三狼殿は…」
「発症したっていうの!?
---それで、三狼はどうしたの?」
「夕べひと晩で第3期にまで進行したため、
これ以上、病状を進行させないために凍結処置に…」
「第3期っ!? ひと晩で!?
そんなことって…。
それに凍結…処置…って、
まだ実験中の技術じゃない! 
それを使ったの!?」
「一子さんの意向です」
「一子ねえの…」
「そうです--」
いつの間にか部屋の中に入って来ていた一子ねえが
話しに割り込んでくる。
「--ウィルスの進行を止めるには、
もうそれしかなかったの。
三狼は弾正様の幼馴染であると同時に
私の弟でもあります。
ですから最善と思う方法をとらせていただきました」

「--まだ話は途中なんですけどね…」
と一子ねえを睨(にら)みながら言うQ太郎。
そのケンの有る声を遮(さえぎ)るように、
「ふたりとも、そのくらいにしてよ」
と仲裁する声が後ろから聞こえる。
この声って…三狼…でも…そんな…。
鬼化の第3期って…
角が生えて、醜くなって…
そう思うと振り向くのが怖い--。

第3章 その5につづく。
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「二楽亭へようこそ」その11 [小説]

第3章 その5

…恐る恐る振り返ると、
そこにはいつも通りの三狼が立っていた。
「さ…ぶ…ろう…、
角は……第3期だって聞いてたのに…
大丈夫…なの…?」
「うん、いつもより調子いいくらい」
「――よかった…」
思わず三狼に抱きつくと、
「わー、結繪ちゃん、ダメ、抱きついたらボク…」
と言うと三狼が慌てて私を引き離す。
でもつぎの刹那、三狼の体から、気がわき上がり、
右の額から角が生え始め、制服が破れていく。
上背は二メートルは超えているだろう。
腕も太もものように太くなっている。
三狼は完全に鬼になっていた…。
なに? いったい何が?
三狼と一緒に来ていた医部・鹿苑寺(ろくおんじ)配下の
ミニスカ看護師さんが、
こんな状況にもかかわらず、妙落ち着いていて、
「鹿苑寺先生の話だと、
興奮すると、熱で生き残ったナチュラル鬼化ウィルスが
通常の三倍頑張っちゃって、
鬼化しちゃうそうです。
鬼化した体は、
完全に三狼さんの意識制御下にあるので、
問題はないそうです」
と説明してくれた。
na-su.JPG
「――なんだって。
だから結繪ちゃん、
もう、急に抱きついちゃダメだよ」
や――っ!! 
三狼のカワイイ声で、
いかつい鬼がしゃべってる~~っ!
「…って三狼、私に抱きつかれれて、
何コーフンしてるわけ? 
このむっつりスケベっ!!」
そう言って向こう脛(ずね)を蹴飛ばした途端、
鬼三狼は、
プシューっという音を立てて縮み始める。
「興奮状態から醒めると鬼化も解けます」
とミニスカ看護師。
「変な所で鬼化しないように気を付けないと、
大騒ぎになっちゃうよね」
あはは、と笑いながら言う三狼。
元に戻ったのはいいんだけど、
服は破けてびりびりで、
ほぼ全裸状態だった。
そこに何も知らない音音がやってきて…。
「みなさま、おはようございます。
今日も良い天気ですわね。
清々しい朝は、清々しい一日の…」
股間に揺れるアレも、
そのまま全部見えてる状態の三狼を目撃した…。
「きゃあ――!! 何なに!? 何なの!? 
三狼っ、あなた、何で全裸なのです?
さっさとその変な物をおしまいなさいっ!!!」
と絶叫しながらその場にへたりこんだ。

医部から報告では、
三狼は冷凍処置後に異常な発熱をして、
その際、
遺伝子操作されたウィルスは壊滅したらしい。
三狼の体温は一時43度にまで達したというのだ。
発熱の間、完全鬼体化したものの、
凍結処置を施すために体温を低下させると、
熱が下がるにつれ鬼化が退行し、
人間の姿に戻り、意識を取り戻したのだという。
残っているウィルスは、遺伝子操作されていない、
通常のものばかりらしい。
このプロセスが解明されれば、
一気にウィルスを壊滅できるかと思った私だけど、
通常の人では、
ウィルスが死滅する43度という体温に耐えられないらしい。
人の発熱の限度は42度。
それ以上は脳のタンパク質が焼けてしまうんだとか…。
そうなると、やっぱりこのウィルスをばらまいている連中を
捕まえるしかない。
このウィルスを扱えるということは、
当然ワクチンを完成させているはずだから――。
医部はこの遺伝子操作されたウィルスを
悪魔=「ディアボロ」と名づけた--。

(とりあえず、三狼が無事でよかった。
でも、三狼、ああ見えて、鬼化してなくても結構筋肉質で…///。
や--っ、あんな映像は記憶から消去しなきゃっ!)
「あ…男なんて…不気味な…」
呻きながら未だに目が覚めない、
音音の額の上のタオルを取り替えながら、
とにかくディアボロのワクチン作りを急がせなきゃ
と思った。

第4章へつづく
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「二楽亭へようこそ」その12 [小説]

第4章 その1

鎌倉府のもっとも重要な霊的方角は、
鶴ヶ岡八幡宮の艮(うしとら)にあたる西御門(にしみかど)。
その艮=鬼門に府立西御門学園は立っている。
校舎のすぐ裏が山になっているので、
体育館の裏などは、うっそうとしていて、
昼間でも薄暗くて不気味な感じがする。
そんな体育館裏の道を、
長い髪を、リボンで後ろにまとめた
高等部2年・那須野結繪が歩いている。

その細い腰には、
ホルスターのようなベルトに、
大刀と小刀を帯刀(たいとう)している。
結絵が体育館の角に近づくと、
その前方を、3人の男子生徒が塞(ふさ)いだ。

どんな学校にも『不良』と呼ばれる類は存在するけど、
私の通う西御門学園は違うと思ってた。
でも、今、私の目の前にいるのは、
この禁煙主流のご時世に、
この若さでタバコふかしている、
いかにも頭の悪そうな男子生徒3人。
これはどう見てもステレオタイプの不良男子生徒だよ…。
「高校って、
別に義務教育じゃないんですから、
そんなアピールしてまで、
学校に来る必要なんかないんじゃないですか…」
「なんだとっ!?」
「ここが近道なので、通りたいだけです。
ただ…私の通り道で、タバコを吸って欲しくないなぁ。
――臭いから」
「それは俺たちにどこかへ行けってことか?」
「はい▽」
「なんだとっ!」
満面のほほえみで答えて上げたのに、
頭から湯気が出そうなほど怒ってる。
まあ、当然の反応かな。
「だいたいあなたたち、
ホントはウチの生徒じゃないでしょ?」
なんて言ったら、更に怒ったみたいで、
みるみるうちに変身していく。
筋肉が盛り上がり、
爪が伸びて、角が2本生えてきて……はい、鬼のできあがり♪
「やっぱり鬼化ウィルスのキャリアかぁ…」
日本人は、もともとこのウィルスの感染者が多いんだけど、
キャリア当人が思い切り落ち込んで、
更に陰の気を持ったあやかしに取り憑かれないと発現しない。
だいたい普通は、
発現すると言っても、
第1期では、キレたり、無差別殺人に走るだけで、
鬼に変身するケースなどほとんどない。
ところがこのウィルスに遺伝子操作して、
ちょっとキレるだけでも鬼に変身するよう細工したヤツらがいる。
今、ウチの生徒会や体育会文化部連合が、
必死で犯人捜しをしてる最中。
あ、ウチの高校、ちょっと特殊で、
異界=幽冥界との接点になってる鎌倉府を守護する弾正府を兼ねてるの。
だから、生徒の3/4ぐらいが、
ずーと昔から、
あやかしとの契約関係を持つ家の出身者とその家来筋で占めてる。
そして、そんな生徒すべてが、
天狐・葛葉ねえさまと契約している私、
弾正尹(だんじょうのかみ)・那須野結繪の配下になってる。
それ以外の一般生徒は、
文武のどちらかに優れた成績優秀な人しか入れないハズで、
こんな不良がここに居るはずがないんだよね。
「剣術は習ってるけど、
鬼相手に手加減出来るほどの腕前じゃないので、
あばらの2、3本は覚悟してね」
そう言いながら、
体勢を低くして愛刀小狐丸に手を掛ける。
結繪刀2.jpg

第4章 その2につづく
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「二楽亭へようこそ」その13 [小説]

第4章 その2

この小狐丸は平安時代にやんごとなきお方が、
刀鍛冶の三条宗近と
伏見稲荷の神霊に鍛えさせたという刀で、
刀身に狐の絵が彫ってあるのがかわいい。
その鍔(つば)に指をかけ、
鯉口を切る。
――と同時に、刀を寝かせて、
右に一回転しながら刀身を相手の胴へと叩き込む。
直後、左に旋刀してふたり目をなぎ倒しながら、
3人目には地面を刷り上げるようにして横腹を峰打ちで一閃する。
私が走り抜けた後、
鞘に刀を収めると同時に3人が倒れる。
(うーん、決まったっ!)
と思ってたら、
「結繪ちゃん、カッコイイって思ってますわね?」
と頭上がら声が降ってきた。
「音音――」
いつからそこで見ていたのか、
大ぶりのクヌギの枝の上から私の横に飛び降りてくる。
あ、スカートがまくれて、
レース使いの白の大人パンツが丸見えになった。
音音、エロい……。
音音ジャンプ.jpg
音音は、同い歳で、親戚で、幼なじみで、
この弾正府では、
弾正忠(だんじょうのちゅう)として私の補佐をしてくれてる。
沈着冷静で才色兼備な上に
私より胸が大きいのはちょっとずるいと思う…。
「あの方たち、
十中八九、遺伝子改造新型鬼化ウィルス、
つまりディアボロに感染してるはずなので、
科学部に回しときましたわ」
そう言われて振り向くと、3人の姿はもう無かった。
確かにディアボロに感染しているなら、
処置は早い方がいい。
なんといってもディアボロというタチの悪いウィルスは、
ワクチンがまだ完成していないんだから…。
ワクチンの開発ができるまでは、
感染者は低温体温療法による一種の仮死状態
=凍結処分にしておく以外に方法がない。
(それにしても音音って、
ホントやることにソツがない)
私と音音は同じ化野家の家系に連なっている。
彼女の家の方が本家筋で、
契約しているあやかしは、地狐の静葉さま。
本来ならば、容姿、能力、家柄とか、どれをとっても私より上な音音が、
弾正尹になるはずなんだけど、
子供の頃のちょっとした手違いで、
音音は私の補佐に回ることになった。
でも、音音はその方が性に合ってるて言ってくれて…。
音音になら安心して背中を預けられる。
なんて、ひとりで感慨にふけっていると、
二人の携帯が同時に鳴る。
「生徒会長から………、
やっと犯人の目星がついたみたいですわね」

第4章 その3につづく
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「二楽亭へようこそ」その14 [小説]

第4章 その3

「だれ? このヒュースケンって?」
結音音ヒュース.jpg
メールに犯人として名指しされた外国人ヒュースケンという名前には
まったく聞き覚えがなかった。
いっしょに送られてきた画像は
江戸時代ぐらい昔の人が描いた
馬に乗ったヒュースケンの絵だったけど、
写実性は全くなくて、何の参考にもならない。
「幕末にアメリカ公使ハリスの通訳として来日して、
麻布で薩摩藩士に斬り殺されたアメリカ人男性ですわ」
「…はぁー、音音、ホント細かい歴史のこと、
良く覚えてるね。でも、そんな死人がなんで…」
「誰かさんが復活させたんだと思いますわ。
得意のキセキとやらで――」
その声を遮るように、キテレツなイントネーションな男の声が響いた。
「oh、誰かさんとは失敬な。
我が主はホントにスバラシお方デース。
故国にも帰れず、彷徨っていた私の魂をお救いくださり、
肉体に戻してくださったのですyo!」
いつの間にか前方に、
割と筋肉質で、メキシコ人っぽい
ごっつい顔つきの外人の男が立っていた。
「弾正尹・那須野結繪殿と
弾正忠・化野音音殿デスね? 
音音さん、あなたもいたとは、ちょっと計算違いですが、
ま、いいでしょー。お初にお目にかかりマース。
私、オランダはアムステルダム生まれのアメリカ人、
ヘンリー・コンラッド・ヨアンネス・ヒュースケンと申します。
以後よしなニ」
「名前ながっ! 
なに? この良く喋る人…」
「結繪ちゃん、
彼がリビングデッドのヒュースケンですわよ」
「えっ!? さっきの絵の人?
全然似てないじゃんっ」
それを聞いていたヒュースケンは、
「……まったく…、
あの絵デスカ。あの絵も酷かったですガ、
今度は生きた死人扱いですか…ふー…」
とひと息ついたかと思ったら、
額に青筋をたてていっきにまくし立ててくる。
「この国の野蛮人どもは、
私をカタナブレードで斬殺し、
あろうことか異教のテンプルに葬ったんでス!!
そのうえ、キセキにより復活した私をリビングデッド呼ばわりとは! 
まさに神をも恐れヌ行いなのデース!!!!」
なんか目つぶって、握りしめた拳がぷるぷるしてる。
ナルっぽいよこの人…。
「150年ぶりに蘇ってみレば、
この国では、まだマダやおよろずという
異教の神とその信徒どもが跋扈(ばっこ)してル様子。
とりあえず、鎌倉に来る途中、
横須賀線で見かけた、
無学で無軌道で無宗教でキレやすそうな若者を
コンヴァーションさせて連れてきましたヨ!」
それを合図にしたかのように、
ガサガサという音といっしょに、
ヒュースケンの背後の山から、鬼どもが数体現れた。
「こんばーじょんってなに?」
「宗教とか宗派とかを変えさせることですわね」
「ディアボロに感染させて?」
「そのようですわね」
そんな会話をしながら、油断なく周りを伺うと
山の中にまだかなりの気配がする。
20体はいるなぁ…。
「こうも簡単に西御門の結界を破られるなんてね」
「結界は生きてますわね。
――来ます。左の7体をお願いしますわ」
鬼化しちゃうと、筋力は数倍になるし、
凶暴化した上に恐怖心が無くなるから始末が悪いんだよね。
オマケに元々人間だから、
派手に壊すことも出来ないし…。
「先ほど、生徒会長にメールを送りましたので、
間もなく援軍がくるかと――」

第4章 その4につづく
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「二楽亭へようこそ」その15 [小説]

第4章 その4

「HAHAHA!! 
ミーも先日蘇ったばかりですが、
携帯が便利なグッズだということは知ってマース」
「………」
幕末の人だっていうから
時代遅れなヤツかと思ったけど、
そいえばコイツは遺伝子操作したウィルスをばらまいてるんだったけ…。
「主から頂いた、この聖なる機械(マキナ)で
西御門結界の中にもうひとつ結界をはり、
電波は遮断させていただいてマース!」
そう言ってアンテナが3本も出ている
トランシーバーみたいな携帯ジャマーを見せるヒュースケン。
「あれはたぶん、電波法に抵触しますわ」
冷静につっこむ音音に、
「主は超法規的存在なのでノープローブレムでーす。
税金もかかりまセん」
とヒュースケンがマジレスをつける。
それを聞いて音音が、
「うらやましいですわ…」
と心底うらやましそうに言った。
(そいえば、音音の家はやたらでかいから、
固定ナントカ税が大変とか言ってたな…)
そんなことを考えつつ、
迫ってくる鬼たちの攻撃を右へ左へとかわしながら、
じりじりと後退していく。
「援軍来ないみたいだね」
「では、仕方ないですわね」
音音とアイコンタクトすると、私は愛刀<小狐丸>を天に掲げて、
音音も愛刀<狐ヶ崎>を地に向けてそれぞれの守り神の名を呼ぶ。
「天狐・葛葉ねえさま!」
「地狐・静葉ねえさま…」
すると、ふたつの光り輝く珠が中空に現れ、
絢爛(けんらん)な巫女服を着た、
狐の耳としっぽを持ったふたりの女性が現れた。
「静葉ちゃん、久しぶりのお呼びと思えば、
周りは鬼だらけなのです」
葛葉静は.jpg
「ちょっと多いですね…。
今夜は大山阿夫利神社門前のお豆腐屋さんから、
あぶらあげでもお取り寄せいただいて、
ごちそうしていただけるのでしょうか?」
静葉ねえさまにそう聞かれて、
「たぶん問題ないと思いますわ。
生徒会長に奢(おご)らせますので、
どうかお力をお貸しくださいませ」
と、音音はきっぱり言い切った。
「了解なのです! 静葉ちゃん…」
葛葉ねえさまがそう言うと、
静葉ねえさまが尾の毛を数本抜いて、ふっと吹く。
すると、光の矢がヒュースケンと鬼たちのアゴ2カ所と
手の親指の付け根に突き刺さる。
「静葉ちゃんの経絡針麻酔は良く効くのですよ」
葛葉ねえさまが、涼しい顔で解説してくれる。
ヒュースケンは小刻みに震えてはいるけど、
何とか立ちつづけてる。
でも、鬼達はがっくりと膝を落とし、その場に倒れ込んだ。
私はヒュースケンにつかつかと近づくと、
持っていた携帯ジャマーを小狐丸の石突きでつついて落とすと、
ジャマーの上に踵(かかと)を落としてたたき壊す。
それを何も出来ずに見ていたヒュースケンが、
「My GOD――!!!! 
主から頂いた聖なるマキナになんてことを!! 
この罰当たりめっっ!!」
そう叫んでブチ切れた。
あー、ちょっと挑発しすぎちゃったかな?
ビキビキと音を立ててヒュースケンの筋肉が盛り上がり始める。
自由を奪ってた静葉ねえさまの尾の毛が抜け、
ヒュースケンが完全に自由を取り戻しちゃった…。

第4章 その5につづく
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「二楽亭へようこそ」その16 [小説]

第4章 その5

さらに、何か技を繰り出すつもりなのか、
ヒュースケンの腕が
バチバチと音を立てて帯電してる。
こちらは、ただ待ってるのも芸がないので、
「マッチョは女の子に嫌われちゃうよ~」
と茶化してみる。
「ぬううぅ!! 使徒に対して
どこまでも傲岸不遜なその態度っ!
極東の三等人種に災いあれっ! 
天罰覿面(てきめん!)
The Last Judgement――――ッ!!
(ザ・ラスト・ジャッジメント!!)」
怒りで顔をまっかにして、
そう叫びながら帯電した腕を振り下ろしてくるヒュースケン。
その横っ面に、
上空から降ってきた男子生徒ふたりが、
思い切り蹴りを浴びせる。
「ぶるるぁあああっ!!」
ワケの分からない叫び声を上げて、
ヒュースケンは地面に転がった。
そのヒュースケンを蹴り飛ばした反動で後ろに飛んで、
くるくると三回転して着地した男子生徒は、
「日出(いず)る日ノ本に対し、
極東とは不遜(ふそん)な物言い。
バテレンの暴言聞き捨てならん!! 
鎌倉府弾正府猫部司(びょうぶのつかさ)
石田敏夫見参っ!」
と言い放ってポーズを取ると、
細長い手裏剣の一種・飛苦無(とびくない)を取り出した。
偵察や工作が主な仕事になる猫部は、
身の軽い生徒が多いんだけど、
そのなかでも司を勤める石田は、
弾正府でも1,2を争う機敏さで有名な生徒。
つま先でとんとんとリズムを取りながら、
いつでも攻撃できる態勢を取ってる。
「近衛二番隊筆頭三峯三狼…」
そう言って、すっと立ち上がったもうひとり、
三狼は私の幼なじみ。
頭の左に角が生え、
左手と左足が鬼化している。
その姿を見た血まみれのヒュースケンが、
「ヘイ、ユ――ッ! 
ディアボロに感染して、
何故その力を制御しているのデスカ―――っ!?」
と驚いた様子で叫ぶ。
私と音音、それから十三部衆は、
契約した神やあやかしたちの庇護(ひご)下にあるので、
通常の鬼化ウィルスが発現することはまずない。
だけど、ディアボロウィルスは、
そんな私たちでも感染すれば発現する。
それほど強力にディアボロは遺伝子操作されている。
三狼は、ここ数ヶ月に渡って発生している、
鬼たちが起こす一連の事件のさ中、
ディアボロに感染し鬼化してしまった。
普通なら凍結処分にされるところなんだけど、
三狼は発熱と自分の精神力でウィルスを押さえ込み、
今は力が必要なときだけ、
鬼化することができるようになっていた。
「精神一統何事かならざらん、
つまり気合いってヤツだよ」
黙っている三狼の代わりに石田がそう言うと、
飛苦無をヒュースケンの影に投げつけ動きを封じてしまう。
とどめとばかりに、みぞおちを思い切り蹴りつけると、
「ve…verdammen…」
と呻いて、ヒュースケンは気を失ってしまった。
「ふぇ…ふぇあ…だ…? 
音音、このおじさん、今なんて言ったの?」
「フェアダンメン、ドイツ語で“畜生”ですわ」
ne1.JPG
「ど、ドイツ語…。音音、ドイツ語も分かるんだ~…」

その6へつづく
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「二楽亭へようこそ」その17 [小説]

第4章 その6

そんな会話の横で、
三狼がヒュースケンに魔封じの護符を貼り付け、
駆けつけてきた弾正府の特別警備員に引き渡すのを、
静葉ねえさまが黙ってみている。
「ご指示通り西御門内の警戒レベルを特1まで上げました」
「結構です。彼の血から、
ワクチンが出来る可能性が高いですわ。
絶対に逃がさないようにね」
音音が警備員にてきぱきと指示を出している。
そこに、生徒会長を兼任する
鳩部司(きゅうぶのつかさ)宮本鳩太郎が現れた。
「敵の侵入を許したとのこと、
誠に申し訳ありません。早急に原因を究明すべく………」
と詫びを入れる鳩太郎に、
「あ、Qちゃん!」
と鳩太郎が嫌がる呼び方で答える葛葉ねえさま。
「鳩太郎です…葛葉さま……」
飽くまで冷静を装う鳩太郎だけど、
一瞬、額に血管で怒りマークを浮かばせたのを、
私は見逃さなかった。
そんな鳩太郎の気持ちを知ってか知らずか
葛葉ねえさまが食べ物の催促を始めた。
「まあ、そんな細かいことは気にしないのです。
それよりも、鬼どもを退治たのですよ。
力を使ったので、
お腹がすいたのです。
大山阿夫利門前の大出豆腐店から、
あぶらあげを取り寄せてくださるとか…」
それを聞いてl静葉ねえさまが、耳をぴくぴくさせてる。
静葉おねだり.jpg
普段は物腰やわらかで、
眉目秀麗、沈着冷静な静葉ねえさまだけど、
ああ見えて、好物のあぶらあげとお酒のことになると、
目の色が変わるんだよね。
鳩太郎はにっこり微笑みながら、
「で、では直ちに早馬を--」
と言うと伝令にバイク便の指示を出す。
そして鳩太郎は、
にっこり笑ったその笑顔のまま、私の方に振り向くと、
「結繪さま、お店の指定は受けないでくださいと、あれほど――」
と小声で窘(たしな)めてくる。
「えっ!? だって、それ音音が…」
「まぁまぁまぁ、
ヒュースケンなんていう大物を捕まえたのですから、
やんごとない筋もきっとお喜びですよ。
良いではないですか?」
と音音が割って入る。
「音音様がそうおっしゃるなら…」
「では、会長は宴席の用意を……」
Qちゃんがあっと言う間に丸めこまれた。
私はダメで音音ならいいってどういうことっ!
「音音、ひどいよぉっ。
コレじゃ私が悪いみたいじゃない……」
振り向いた音音が、私の耳元で囁いた。
「ごめんなさいませ。
そのかわり、
このあとの宴席でのお席、
二狼にいさまのお隣にしてさしあげますから、ね? 
よろしくて?」
//////真っ赤//////。
二狼にいさまは、三狼のお兄さまで、
弾正府最強といわれる狼部に所属している。
斬馬刀という、
通常よりも長い刀を得物とする
狼部の長たる司(つかさ)をまかされるほどの腕前。
幼いころから、
ずっと修行に出されていた二狼にいさまと初めて会ったのは、
私が小6で、二狼にいさまが中学一年生のとき。
弟の三狼とはひとつしか違わないのに、
もうすっかり大人びて見えた。
二狼にいさまは、私の憧れの――初恋の人だったりする。

第5章につづく
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