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「二楽亭へようこそ!」 ハワイ細腕繫盛記 その11 [小説]

かき氷を食べた鬼兵団員たちは、
その場に倒れて動かなくなっている。
「これはどういうことっ!
事と次第によっては…」
「タチアナ! 落ち着いてくださいまし――
そんなことをしてわたくしたちに何の得が…」
「音音様!」
音音の弁解を遮るように声が上がる。 
「ダメです…鬼兵団員が凍結していきますっ…」
介抱していたメイドの悲鳴にも似た報告に、
うずくまっている団員たちを見ると、
霜が降りたようにうっすらと白くなっていた。
「音音っ! よくも私の大切な団員たちを!」
190522j2-2.jpg
タチアナは言うが早いか、
腰の後ろに留めてあるナイフが手に滑り込むと
そのまま音音の胸に刃が吸い込まれていく。
「あっ…」
自分の胸に刺さっているナイフの束に手を伸ばそうとして、
音音は膝から崩れ落ちていくのを、
護衛のオオゼキが腕を長く伸ばして辛うじて受け止めたが、
その腕の中でぐったりして動かない。
「音音様っ! そんなバカなっ…こんなとこで…
死なないでくださいっ! 音音様っ!!」
その様子を格納庫の奥からそっと覗いていた女が、
「ぎゃははははは! ざまーミロ!!
死んだっ! 死んだっ
化野の小娘がいい気になるからさ!」
と囁いて裏口のドアを開けて立ち去ろうとするのを、
一人の屈強なアメリカ兵がドアを閉めながら立ちふさがった。
「すみません、私気分が悪くて外に出たいんです…」
と言って出ようとするが、
「This door is the ban on use just now.
This spot preservation is necessary, the person concerned cannot move from here.
(今この瞬間からこのドアは使用禁止だ。
現場保存の為、関係者はここから動くことは許されない)」
と宣言して微動だにしない。
「Is it not you to have carried chipped ice?
(それにあのシェイブアイスを運んだのは君だろう?)」
「英語で言われてもわかんないよ!
いいからおどきデカいの!!」
言うが早いか素早く腕を上げると、
そこから吹雪のような強烈な冷気がほとばしった。
兵士はそれを予見していたようで、
素早くよけると女の腕を取り後ろへとねじ上げた。

第11話おしまい
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「二楽亭へようこそ!」 ハワイ細腕繫盛記 その10 [小説]

「さあ、できましてよ」
木を紙のように薄切りにして作った
経木トレイに盛られたカラマリボールが
つぎつぎとロシア人の先頭の男に手渡されていく。
「串にさしてひとつづつお取りあそばして…
行き渡りましたか?
それではどうぞお食べください!
プリャートナヴァ アペティータ(召し上がれ)!」
音音に言われるまま、
熱いカラマリボールを口に含んだ男たちは、
最初はふはふ口の中で遊ばせいたが、
味がわかると破顔して、
「フクースナ!(おいしい)」
「オーチン フクースナ(すご、うまっ)」
と満足げだが、
10人にひとりが咳き込みながら悶絶した。
「今回特別に当りにはデスソースを入れておきましたわ」
その中の一人にはタチアナも含まれていて、
「――音音っ! 
か…可憐な美少女にっ…はっはっ…
こんな辛いモノっ…はっはっ…
食べさせてっ…はっ--っ!
殺す気っっ…ゲホゲホっ! はっはっはっ…!?」
と涙ながらに訴えてきた。
190308j2.jpg
「タチアナさん、
新至命者に列っせられてから何年たちました?
もう少女ではありませんでしょう?」
「体は少女だからっ! ゲホゲホっ!」
音音もさすがに可哀想だと思ったのか、
「今回はデスソースでしたけど、
普通はタバスコ程度ですから…。
これには何も混入してませんから
安心して口直ししてくださいな」
と言いながらカップに入ったかき氷をタチアナに渡した。
こちらにも何か入れるという、
外道なお笑い芸人のような真似もできるのだが、
信頼をそこねるのでちゃんとしたかき氷を出すように指示してある。
他のデスソース入りカラマリボールを食べた男達にも
かき氷が振る舞われ、
そのかき氷のおいしさにびっくりして、
「オ――――チン 
フクースナ(すご――――、うまっ)」
と叫んでガツガツとかき込んで、
頭が痛くなりその場でしゃがみ込んでいる。
「ち…ちょっと音音、
これ大丈夫なんでしょうね?」
一刻も早く食べたいタチアナだったが、
さすが元ロマノフ皇帝家の皇女だけあって、
今度は辛いのを我慢して慎重に配下の様子を伺っている。
「こんなの単なるアイスクリーム頭痛にすぎませんわ…」
そう言いかけた音音だったが、
へたり込んでいる団員たちの口から、
「ううっ…さ、寒い…」
という声が漏れるに至ってその表情が急に曇った。
「いけないっ! 
雪ん子を連れてきて! 急いでっ」
音音は格納庫の奥に向かって叫んだ。

第10話おわり
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「二楽亭へようこそ!」 ハワイ細腕繫盛記 その9 [小説]

ダニエル・K・イノウエ国際空港と滑走路を共有する、
リベラルアメリカ軍のヒッカム空軍基地の格納庫前で、
屈強な男たちを60人程従えた
軍服姿のツインテール少女が立っていた。
13~15歳位にしか見えないその少女――
帝政時代のロシア軍大佐の襟章を付けた――の前にリムジンで乗り付けた音音が降り立った。
「――遅かったですわねタチアナさん」
音音が、
東京にいたタチアナに出したメールに指示した、
スカイプでの通話から20時間後というのは、
飛行機のチャーター代をケチって、
自衛隊輸送機c2に乗せて貰った結果であり、
ほぼ音音の責任と言える。
しかも、
巡航速度マッハ0.8という、
ボーイング787ドリームライナーよりマッハ0.05も巡航速度の劣る
自衛隊のC2で来たことを思えば上出来だろう。
「なっ…!」
ふだんならすかさず言い返すタチアナだったが、
慣れない飛行機の上に、
かたい輸送機のベンチシートに揺られてきたあとだけに、
二の句が継げずに口をパクパクさせていると、
「いや姐さん、
準備時間と空港までの移動時間を考えたら
メチャクチャ早いと思いやすぜ?」
とキザクラが助け船を出した。
「そんなことわかってますわ。
あいさつ代わりの冗談を真に受けらても困りますわ」
音音は本当かどうか怪しい返答をしながら、
タチアナの方に向き直ると仕事の確認を始めた。
「概要はデータで送信した通り、
雪ンバとその一党の掃討がメインですわ。
この連中には何をしてもかまいませんが、
現地の勢力には注意して。
できるだけ事を構えたくないので、
どうしようもない場合以外は傷付けることも禁じます」
「了解りょうかい。
VK=ヴォスネセンスキー警備の初仕事だから、
しっかり働かせてもらうわ」
「それにしても大人数ですわね?」
「あ、それは私たち寒いとこは大丈夫なんだけど、
暑いとこで不測の事態が起こっても大丈夫なように
乗せられるだけ乗せてきたの」
そう言われればロシア人の部隊だけに納得した音音。
「明日から新規店舗
<ロシアンカラマリボールマニア>の開店キャンペーンを始めますわ。
細かいことはこのクボタにお聞きになって、
周囲の警戒に遺漏ないようにお願いしますわ」
そうタチアナに告げて立ち去ろうとすると、
タチアナがさっと音音の前に立ちふさがった。
「ちょっと待って! 
そのお店の商品はどんな食べ物なの?」
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「ああ、確かにどんなものなのか
知っておいた方がいいですわね」
音音が手を挙げると、
リムジンの後ろに止まっていたバンの後部がトランスフォームすると、
オープンキッチンが現れて、
すでに河童ガードの一人がカラマリボールの生地を
鉄板に流し込み始めるところだった。
「このあとこのバンを塗装に回そうと思って帯同していて正解でしたわ」
「これってタコヤキ…」
「いいえ、タコではなくイカですわ。
お好み焼きを丸めて貰ったと思えば味の想像はつきますでしょ?」
「ああ、なるほど、
西欧人になじみのないタコよりはイカということね…」
「でもね、それだけじゃ、
面白みに欠けるでしょう?
ですから、10個のうち1つだけ、
大人用にはホットチリソースが仕込んでありますの。
もちろんお子様には刺激が強いので、
いちごジャムを入れてありますわ」
そんな会話をする内にも、
カラマリボールはどんどん形を丸くしており、
いい匂いをあたりにまき散らしていた。

つづく
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