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「豪快! 両国夢想」第6話「神なるもの」その50 [小説]

「――さてと…。
これでしばらくは、
表立って仕掛けてくることはないでしょ?」
ルーズベルトの乗ったヘリが飛び立つのを眺めながら
つぶやいた結繪に、
モニタの中の音音が話しかけてくる。
「――ということは、
裏ではいろいろ仕掛けてくるってことですわね」
「うん、もちろん気は抜けないよ。
でもそれは今までとあまり変わらないわけだし、
国内から南部連合軍が出て行くだけでも随分楽になると思うし…。
それに連中が一番恐れてることが
よくわかったから…」
「民衆の知識・知恵の向上ですわね。
民衆がクレバーになること=信者の減少――
――すでに西ヨーロッパでは
第二契約者の数は前世紀の半分以下になってますわ。
民衆がきちんとした”智”を手に入れられれば、
彼等の兵隊になるべき信者はいなくなる
というわけですわね」
くすくす笑いながら話すふたりには次にすべきことが
明白になっていた。
「これから忙しくなるね。
上座部系の悟りたちはとりあえずほうっておくとして…」
今使用してる回線が第三契約者たちのものであることを思い出した結繪が
一瞬言葉尻を濁すと、音音が、
「あ、この通信は飛鳥インダストリー社製のシステムで暗号化してあるので、
安心してしゃべっていただいて大丈夫ですわ」
と安心させるとさらに続けた。
「そうですわね。
攻撃は最大の防御とも言いますし、
第一、第二はもちろん、同盟者たる第三契約者の信者に対しても、
もちろん国内の葬式解脱信徒にも、
すべてのメディア、媒体を使って
知識のかさ上げを行いますわっ!」
すでになにかプランがあるのだろう、
少し興奮してきた音音をなだめるように結繪が口をはさむ。
「まあ、そのあたりはQちゃん先輩たちに任せるとして、
とりあえず今は少しゆっくりと…」
「温泉で宴会ですわねっ!!」
「えっ!?」
びっくりした結繪が、
背後からにゅっと顔を出した葛葉の方を反射的に振り向いて
タブレットの方へ振り返ると
その画面から音音の姿は消えていた。
「? あ、あれ、音音?」
葛葉と顔を見合わせ
狐につままれたような顔をしている結繪の頭上から
音音の声が降ってくる。
「結繪ちゃーんっ!」
「音音っ!」
上を向いた結繪の瞳に飛び込んできたのは、
両手両足をぴっと体にくっつけるようにして
弾丸のように降ってくる音音と静葉だった。
「!」
とんでもないスピードで急降下してくるふたりに驚いた結繪の心配をよそに、
静葉が音音の手に触れると、
重力を無視したふたりの体はと空中で止まり、
音音は結繪に向かって手を伸ばした。
「おかえり。交渉ごくろうさま」
音音の手を掴んだ結繪に飛びつくようにして降りてきた音音は、
「本当に一時はどうなることかと思いましたわ。
Qちゃんには御願いしておきましたけど、
おっつけ第三から借り受けたカリフ兵団イエニチェリ軍団が
到着する予定ですので…」
そこまで話すと、
結繪にもたれかかるようにして眠ってしまった。
戦国時代の軍師よろしく、
第三契約者最高評議会に乗り込んだ音音は、
日の本がジ・オンリーの息がかかった第二契約者の国である
アメリカ南部連合に併呑されることの不利を説き、
上座部諸国の了解を取り付けるまでの間、
ほとんど不眠不休で働いていたのだ。
「あらあら、寝てしまいったのです。
じゃあさっそくここに緋毛氈(ひもうせん)を敷くのです♪」
葛葉がそう号令すると、
そこここから狐メイドたちがわらわらと現れ、
アッと言いう間に紅白の幔幕(まんまく)を張り巡らせて
会場を作り上げてしまった。
「仕方ないので温泉は我慢するとして、
ここ七里ヶ浜で今日の勝利をお祝いするのです♪」
「…仕方ないか…」
結繪は主立った者を集めると各方面に指示をだし、
油断なく警戒網を作り上げると、
宴会場の上座で寝ている音音の側に戻った。
…今、できるだけのことはしたんだから、
あとは成り行きまかせ。
明日から、
第一第二契約者の支配する国は、
域内の信者が情報汚染することを恐れて、
海外との情報遮断に踏み切り、
最終的には鎖国しすることになるだろう。
結果、
闘いの様相はまるで違ったものになり、
暗闘が増えていく。
一般大衆の知識レベルの嵩上げに成功するのが先か、
連中が結繪たちをふくめた指導層を根絶するのが先か…。
人から押しつけられる神ではなく、
自分の心のなかにある神なるもの。
私たちはそのために生き、そのために闘い、そのために死んでも後悔しない。
静葉が謡い、葛葉が踊り、
その周囲でみんなが騒ぐ音をききながら、
結繪は音音の顔を見ながら、
「今は勝利の旨酒を」
と囁いてジュースの入った杯を差し上げると一気に飲み干した。
140412j2 のコピー.jpg
おしまい
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