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「二楽亭へようこそ」その5 [小説]

第2章 その3

「あっ! 三狼こっち見るなーっ!」
そう言って怒鳴る私の横で、
音音もこっち見てはぁはぁしてるし…。
そうこれ…、
これが音音の困った趣味。
音音って、普段はクールだけど、
レズっ気があって、
ちょっとエッチなスイッチ入ると
見境なく私を襲ってくる…。
今もそんなスイッチが入ったらしく、
なんだか目つきが怪しくなってるんですけど…。
あー、もうっ!
音音がそんな困ったHモードになったのも、
みんなこの妖怪がいけないんだからねっ!
「このエッチ妖怪!! 
急いでるって言ってるでしょ!」
そう言ってるのに、大人しくなるどころか、
更に触手の数が増えて襲ってくる。
「もう! 言っても聞かないんじゃ、
しょうがないよね!」
そう声を音音に投げつけると、
はっと正気に返る。
「そうですわね」
音音と目を合わせると、
私は愛刀・小狐丸を天に向けて、
「かけまくもかしこき稲荷大神の大前に、
かしこみかしこみももうさく…」
と稲荷祝詞(のりと)を上げ始める。
音音は、愛刀・狐ガ崎を地面に向け、
「本体真如住空理……」
と稲荷心経をとなえる。
003.jpg
すると中空から、
狐耳に狐のしっぽのある
ふたりの美しい巫女様が姿を現す。
ふたりは私と音音が契約する守護妖、
五尾狐の有明葛葉ねえさまと
四尾狐の阿部静葉ねえさま。
1385年に玄翁和尚が殺生石を砕き、
そのとき飛散したかけらから顕現したふたりは、
せいぜい20歳ぐらいにしか見えないけど、
ホントはもう600歳に近いらしい。
普段は西御門高校内にある
空中庭園二楽亭に住んでいて、
こんなときには力を貸してくれる。
「うー、なんですか、狢(ムジナ)臭いのです~っ!?」
出現するや、葛葉ねえさまが呻く。
「臭すぎますわ~~っ」
ふたりとも、少しでも悪臭を防ごうと、
顔の前に巫女服の裾をかざして、鼻を隠してる。
そうか、相手は狢なんだ…。
狢といえば、狸の親戚。
ウチの学校にもエロ狸がいるけど、
道理でエロい感じがすると思った。
「葛葉ねえさま、静葉ねえさま!」
「あらあら、結繪さん、
その格好はどうなさったのですか!?」
「それより、
この人達を病院に連れていきたいんですけど、
この狢が言うこと聞いてくれなくて」
と窮状を訴えると、
葛葉ねえさまと静葉ねえさまは、黙って頷いて、
「ここからは、
私たちがお相手してさしあげましょう。
あなたたちは、その間に救護を呼びなさい」
そう言って袂(たもと)から御札を取り出し、
部屋の四方に投げつけると、
何事か祭文を唱え始める。
「こ、この祭文は稲荷の…。
ぐげげげげげぇ、なんで稲荷神がここに…」
狢が驚くのには構わず、
祭文を上げつづけるふたり。
そして最後に、
「えいっ!」
とハーモニーを奏でるように
気合いを掛けると、
御札から文字がトゲのように突き出して、
辺りを貫いていく。
「ぎゃああ!!!」
あたりの肉壁が消え、
普通の林の風景に戻った。

その6に続く。
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moe

K-STYLEさん おはようございます。
nice! ありがとうございます♪
by moe (2010-09-01 08:13) 

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